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吾妻山岳会長 山崎 孝利(東吾妻町郷原)

【略歴】 中之条高卒。あがつま農業協同組合などに勤務後、現在は県自動車整備振興会吾妻支部事務局長。東吾妻町観光協会副会長。県自然保護指導員。

尾瀬国立公園

◎良きモデルケースに

 スピードや効率を優先した現在主流の登山とは対照的に、マイペースで山に登り山を楽しむことも重要なポイントだ。

 山をゆっくり眺め、楽しみたい、と多くのハイカーが思っていると解釈するが、なかなかできないのが日本人的な登山なのか? そうなると、目立った花や、ときどき眺める風景ぐらいしか記憶に残らない気がする。

 八月三十日、日光国立公園から尾瀬地域を分離・独立させ、新たに尾瀬国立公園とすることを官報に告示、尾瀬国立公園が誕生した。二十一世紀の国立公園のモデルケースとして注目される。

 独立に伴い、どんな変化がもたらされるか。行政、地元、自然保護団体、動植物学者らの観点からさまざまな課題が考えられる。ここ数年、シカが尾瀬湿原の樹木の皮をむいて食べる問題と、それに伴う破壊が進行している可能性も指摘されている。湿原のシカによる「掘り起こし」は、ミツガシワなどの根茎をたべるためにシカが湿原を掘り起こすもので、深い所では三十センチにも及び、湿原に対する大きなインパクトだ。環境省の調査では、木道がなく人が立ち入れないような沼や原、周縁が多いという。駆除などを視野に入れ総合的対策を検討しているというが、実施には地形的、社会的に難しさがあるようだ。シカは、尾瀬の貴重で脆弱(ぜいじゃく)な生態系の将来を大きく左右する可能性をもっており、今後の推移をわれわれも慎重に見守りたい。

 単独化した尾瀬には全国、各国から広大な自然の宝庫を一目見ようと多くの登山者が訪れるだろう。大いに結構だが、富士山では七、八月には三十万人もの登山者が押し寄せ、し尿処理が大きな課題になっているというから、その点が心配だ。

 富士山は、浸透性の高い地質で、水の確保が難しい。五合目から山頂までの山小屋や公衆トイレの多くは岩盤地帯にあるため浄化槽の設置は困難で、素掘り穴の地下浸透式か山肌への放流式が大半。悪臭や景観の悪化、衛生の問題が指摘されている。バイオトイレも一部では設置されているが、厳しい気象条件、管理コストなど課題が山積している。

 尾瀬国立公園には、環境負荷のより少ないトイレの設置を願う。「し尿」のほか、「ごみ」「携帯電話」の問題も併せ、国立公園にふさわしいモデルケースになってもらいたい。

 また各地で一般登山道外への入山を規制する動きがある。「保護」や「遭難防止」のためだ。しかし、実際に触れられず見られない自然を図鑑やパンフレットで眺めていたのでは、自然の意味を理解できるわけはない(頭でわかるだけ)。また遭難の多くを占める一般登山者を規制せずに、登山道以外を歩く人たちを締め出しても、遭難件数が激減するわけでもない。自明のことだと思うが―。

 高いモラルを各自が持ち、『夏の思い出』がいつまでも「こだま」する尾瀬であってほしい。






(上毛新聞 2007年9月23日掲載)