視点 オピニオン21
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地球屋統括マネジャー 小林 靄(高崎市東町)

【略歴】 前橋市生まれ。ちょっと変な布紙木土「地球屋」のデザイナー兼統括マネジャー。本名洋子。古布服作家、歌人としても活躍。著書に「花の闇」など。

ものの見方

◎思想に左右される

 ベッドより下りる素足が見つめいる男の視線踏みつけて立つ

 今から二十年ほど前の入退院を繰り返していたころの歌である。短歌はいったん発表すると独り歩きを始め、読者の鑑賞に委ねることになり、作者の思惑など関係なくなってしまうという危険性がある。それは両刃(もろば)の剣(つるぎ)で、それを期待する作り方もあり、逆の面もある。この短歌はその後、物議を醸すことになった。単純に、入院見舞いに来てくれた男性を詠んだだけのことであるが、男女間の機微と捉(とら)えられた方もあった。そういえばそうとも取れる歌でもあるが、自分の意図としないながらの独り歩きは、この短歌に限ったことではない。

 親切をしたつもりが、それこそ、「小さな親切、大きなお世話」などと言われてしまうことさえある。物事に関する見方・捉え方は、その人の思想に大きく左右されるようである。それによるトラブルをよく耳にする。われわれが生まれてから育ってきた環境、周りの人たちからの影響も含めて、その人の思想が形成されていくのだろうが、そのことが人のものの見方・捉え方に大きな影響を与えてくるのだろう。毎日の仕事に対する考え方も個人差があり、なるべく仕事を減らし、楽をして暮らしたい人や、私のように積み上げた仕事をどんどんこなしていくのが好きな人もいるだろうし、さまざまである。

 先日、九十四歳のご婦人のお宅に伺った時に、「八十歳の時にも老いるということを考えなかった」と言われた。九十四歳の今、受け身になってしまったことが心配だとも言われた。その話をされるスピード、身のこなし、将来の展望についてなど、いまだ現役の話の内容もさることながら淀(よど)みのなさに圧倒され、すっかりファンになってしまった。その一カ月ほど前にも、東京からベンツ500を駆って来店された八十八歳のご婦人がおられた。百年も前のご本人のおじいさまの羽織裏、唐傘を差した唐子の柄でブラウスに仕立てたものを羽織られて、次のオーダーにみえた。

 私の周りにはさまざまな年齢の方々が、矍鑠(かくしゃく)として(この言葉は相応(ふさわ)しくないような気がする。「老いても元気」とは違うので)一線で活躍している。この方々に共通している点は、お洒落(しゃれ)であるということ、いろいろなことに興味があること、またそれを実践していることである。現にきり絵をしていたり、部屋のリフォームをしたり、ダンスも現役だったり、経済のことにも意見を述べたり…と、話をしていても切りがないくらいに魅力がある。毎日が充実しているのであろう。

 こういう方々に接していると、自分の至らなさ、修業の足らなさを思い知らされる。と同時に、力がわいてくるような気がして、頑張らなくてはと思うこと頻(しき)りである。このように悠々自適に今を暮らしておられるということは、一日にして出来上がったものではなく、今までの人生の過ごし方が反映されているのであろうと、あらためて日々の暮らしの大切さを考えさせられている。今からでも遅くはない。いかにしたら充実した毎日を過ごせるのだろうかと考えている。






(上毛新聞 2007年10月6日掲載)