視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
前橋るなぱあく園長 佐藤 恭一(前橋市城東町)

【略歴】 東京大教育学部卒。元県庁職員。2人の息子を育て、父と母の介護も自分でして見送った。得意は料理。趣味は酒。家族は妻と猫1匹。自慢はよき友達。

小学生の質問

◎商いの基本は「正直」

 「経営上、困っていることは何ですか?」

 「お金がないことかな…」

 「経営上、工夫していることは何ですか?」

 「それが分かると園長は楽なんだけど…」

 今月三日、群馬大附属小学校の五年生の質問攻めに遭った。いろんな仕事をしている人から聞いたお話をまとめる課題学習だという。

 矢継ぎ早の質問にろくな答えができないヘボ園長は、仕方なく柿の実をプレゼントしたり、サツマイモの葉っぱの首飾りを作ってあげて誤魔化(ごまか)すしかなかった。

 「みんなを楽しませるのにどんな工夫をしてますか」って問われて、「すべての人に楽しんでもらうことはできないんだよ」って、マジに答えてしまって、あとで、まずかったなと反省している。

 でも、ウソではない。すべてのお客さまに満足してもらえれば苦労はない。それができないと分かっていて、その上で、お客さまの立場にたって、お客さまの満足を考え続けるのが私たちの仕事なのだ。

 こないだ、前橋の旧連雀町(現本町二丁目)の「清香園」に煎餅(せんべい)を買いに寄った。何が良いって、煎餅を一枚ずつ売ってくれる。ごま、唐辛子、大豆、醤油(しょうゆ)、のり、五枚買った。もちろん美お味いしい。でも、私が好きだといっても、そんなの面倒くさいっていう人は、きっといるに違いない。

 小銭しかないのに、どうしてもすき焼きを食べたくなった友人が、上電前橋中央駅近くの「肉のチャンピオン」で、一●(つかみ)の小銭並べて「これで牛肉売って」って頼んだら、「はいよ!」って売ってくれたんだって。でも、別の友人がタタキ用の牛肉買いに行ったら、売ってもらえなかった。でも、ご主人が話す売れない理由を聞いて納得、「あのご主人、肉屋の鑑(かがみ)だ!」と絶賛しきりだった。でも、断られて、恨む人がきっといるに違いない。

 岩神町の「養田鮮魚店」のオヤジが言っていた。「オレが気に入って仕入れた魚を買ってもらえなくなったら、魚屋やめるよ」って、いつになくしんみりした口調で。本気なんだ、覚悟なんだ、きっと。

 中央通りの「黒田人形店」に行くと、おかみさんは「これ、社長が仕入れたの」って、社長は「このコーナーはかみさんのです」って言う。こういうのってすごく素敵(すてき)なことだと思う

 附属小のお友だち、分かってもらえるかな。私は、すべての人の欲望を、すべて満たすことができるみたいに言うことはウソだと思う。そういうウソをつくのも、ウソに乗るのも悲しいと思っている。

 誰にも、みんなに楽しんでほしいと思うし、そのために努力もしている。でも、自分が「これが良い!」って信じられるものしか、みんなにおススメできないし、してはいけないのだ。それが正直ってもんで、昔から商いの基本なのだと、ヒゲ園長は、まちの人たちから教えられている。

 ウソつきは泥棒のはじまりっていうんだよ、みんな。正直に生きようよ。正直に生きて、それでも道が開けなければ、それも人生っていうもんだよ。附属小のお友だち、これで答えになっているかな。

編注:●は手ヘンに國






(上毛新聞 2007年10月17日掲載)