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NPO法人DNA代表アドバイザー 渡辺 大輔(東京都港区)

【略歴】 高崎経済大卒、同大大学院地域政策研究科修了。DNAの中心メンバーとして若者の就業支援やキャリア支援事業に取り組む。株式会社インテリジェンス勤務。

桜3万本の植樹計画(下)

◎環境保全に必要性痛感

 ことし三月三十日、いよいよ中国・蒋家村に村民との共同作業で、五十本の桜を植える日がやってきた。朝からお酒が出される。中国ではお客さんがいれば、朝食に関係なくお酒がふるまわれるそうだ。昭和の大家族を彷彿(ほうふつ)させるほどの大人数で、にぎやかに和気藹々(あいあい)と朝食をとる。核家族化が急激に進む現代日本では、もう味わうことのできない貴重な体験である。

 朝食後、植樹場所に向かう。自分の背丈ほどの苗を、村民と二人一組になって植えていく。五十本であるが、私たち七人と蒋家村の人々総勢約三十人の、桜三万本植樹計画の記念すべき第一歩である。苗・資金提供、植樹時の人材の派遣を日本側が、土地の確保、植樹後の桜の保全・管理を蒋家村が行っていく。

 一時間ほどで五十本の桜を植え終える。意外と速い。四年後、立派な花が咲くことを皆で願いつつ一本一本大切に植えた。

 その後、今回蒋家村に桜を植えるきっかけの一つになった、土壌流出による環境破壊の現状を視察する。われわれは、その現実に愕然(がくぜん)とした。蒋家村の裏山にはほとんど木がなく、不毛の大地と化していたのだ。歴史は、かつて毛沢東隆盛の時代、中国共産党による樹木の大量伐採にさかのぼる。肥沃(ひよく)の土地は樹木から守られなくなり、雨が降るたびに土が流され、年々平らな大地は深い谷へと化していた。一歩踏み外せば命がない深い谷だ。村民が生活の糧としている畑はその谷のすぐ隣にあり、いつも危険と隣りあわせで畑を耕している。あるいは、自分の畑が年々削られていくのを、何もできずにただ見ているのだ。樹木の役割、植樹の必要性をあらためて痛感した。

 裏山視察後は、蒋家村の村長をはじめとする村役員との今後の桜植樹計画について協議した。われわれは、今回のプロジェクトに取り組む確固たる組織の結成と、さらなる資金調達と定期的な植樹を通しての交流、蒋家村は、桜を植えるための土地の確保、受け入れ態勢を整えることで合意した。

 今回で、桜三万本植樹計画の報告も最後である。もう一度、本プロジェクトの趣旨を確認したい。事業趣旨は、以下の三点である。

 (1)環境問題の改善…日本人一人一人の知恵とノウハウを生かし、中国農村部の環境問題改善に取り組む。

 (2)日中文化交流…日中間の積極的な交流をはかり、互いの歴史・文化を知り、相互理解を深め、日中友好を促進する。

 (3)地域活性化…桜の名所づくりを通して、中国農村部の観光振興をはかり、活性化につなげる。

 私は参画できなかったが、九月に第二回の植樹と交流が蒋家村で行われた。桜三万本の植樹というのは、途方もない年数と資金、多くの人々の協力が必要である。無謀かもしれない。しかし、確実にその輪は広がってきており、ゆっくりではあるが、着実に前進している。この記事を読んでくださった方のご協力を切に願い、締めくくりたい。






(上毛新聞 2007年11月1日掲載)