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国土交通省高崎河川国道事務所長 前佛 和秀(高崎市栄町)

【略歴】 北海道生まれ。北海道大大学院修了後、1991年度に建設省(現国土交通省)入省。岐阜県、東北地方整備局、本省大臣官房、道路局を経て昨年7月から現職。

台風襲来

◎災害は忘れたころに

 今年九月六日から七日にかけ、台風9号が群馬県を襲い、県南西部を中心に五百ミリを超える大雨が降りました。前橋地方気象台で観測する年間降水量が千百ミリですから、その約半分が二日間で降ったことになります。この台風の被害により南牧村が孤立するなど、県西南部を中心に大きな爪跡(つめあと)を残しました。道路などの公共施設等への被害は百数十億円に及ぶといわれています。

 道路では、国が管理する国道18号をはじめ、上信越道等の長野と群馬を結ぶ幹線道路が約三十六時間にわたり通行止めとなり、両県の行き来が困難になりました。生活や産業に大きな影響を与えたと思料されます。また、河川では各所で氾濫(はんらん)し、特に、鏑川の高崎市山名町にある観測所では、氾濫危険水位を超え、観測史上最高の水位を記録。藤岡市上落合地区で避難勧告が発令され、百二十七人の地域住民が避難しました。あらためて、災害の恐ろしさ、影響の大きさを痛感させられました。

 日本は災害列島と呼ばれるように、地震、台風などが毎年のように各地を襲い、多大な被害を及ぼしています。記憶に新しいところでは、隣県の新潟県で二○○四年十月に中越地震、○七年七月に中越沖地震が発生し、大きな被害を与えました。幸いにも、群馬県内にこれら地震による被害はありませんでした。また、ここ数年、台風等による災害も発生していませんでした。「群馬県は自然災害が少ない」といった話を地元の人から度々聞きました。果たして、群馬県では自然災害が少ないのでしょうか。

 群馬県の成り立ちを紐(ひも)解とくと、浅間山や草津白根山などの火山活動、利根川や渡良瀬川などの河川氾濫により、今の群馬県の大地が形成されたと考えられます。過去、天明の浅間山大噴火やカスリーン台風などにより大きな災害を受けています。わが国は、年平均二、三個の台風が上陸し、世界の約一割の地震エネルギーが発生するなど災害に見舞われる可能性の高い国土です。

 また、近年、降雨の様相が変化しており、短時間に発生する集中豪雨が増加傾向にあります。過去百年において、自然災害につながる可能性のある、日降水量百ミリ以上や二百ミリ以上の降水が発生した日数も増加傾向にあります。わが国は、国土の約10%の想定氾濫区域の中に人口の二分の一、資産の四分の三が集中しています。災害時に備えるため、さまざまな対策が必要です。

 また、地域住民に災害に係る情報を迅速かつ的確に提供することも重要です。市町村は○九年度までに、河川管理者が作成した浸水想定区域図をもとにハザードマップを作成することになっています。高齢化が進み、合併により市町村の行政区域が拡大している中、取り組みが急がれます。

 「災害は忘れたころにやってくる」。今回の台風9号の被害は防災意識に対する警鐘であったかもしれません。






(上毛新聞 2007年11月5日掲載)