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神経心理士 福島 和子(富士見村赤城山)

【略歴】 国際基督教大大学院修了。医学博士。専門は神経心理学、神経言語学。県内2カ所の病院に勤務。著書に『脳はおしゃべりが好き―失語症からの生還―』がある。

認知機能

◎五感すべてを使おう

 脳の働きは人間の行動すべてにかかわっています。特に言葉を話したり、判断したり、推理したり、記憶したりするような能力を高次脳神経機能といいます。なぜ高次かといいますと、食べることや眠ることなどの基本的欲求、嬉うれしいとか悲しいとかの感情、単純に歩いたり手を使ったりというような行動の上にある機能だと考えられているからです。高次脳神経機能は認知機能とも呼ばれています。

 では認知機能って何なのでしょう。

 いま脳の働きとして、言語・判断・推理・記憶という言葉を挙げましたが、これらが脳の中で実際に働くためにはある前提条件があります。それは、脳が外側にあるものを取り込んでから働き出すということです。

 どこから脳に取り込むのでしょうか。それは、目であり、耳であり、皮膚であり、鼻であり、口(舌)であります。そう、私たちが五感とよんでいる感覚は、私たちの外側の世界を脳に取り込むための入り口なのです。目は私たちを取り巻く世界から、形や色を見て取り込みます。耳は鳥や動物の鳴き声、人間の話す言葉、音楽などを聞いて取り込みます。皮膚は空気の流れや、温度、硬さや軟らかさを取り込みます。鼻は花の香りや食べ物の匂においを、舌は食べ物の味を取り込みます。脳がこれらを取り込む場所はそれぞれ違います。こうして取り込んだものを情報といいます。

 脳に入ってきた情報は脳の中で、他の入り口から入ってきた情報と組み合わせられたり、すでにある情報を引き出したりして、判断や推理という働きをします。その中のあるものは記憶されます。あるものは入ってきたときと形を変えて、たとえば言葉や行動で、脳の外に出ていきます。こういう働きすべてを認知機能というのです。

 認知機能は生まれながらに備わっているのでしょうか。いいえ、人間は認知機能が未熟なまま生まれてきます。生まれてから自分を取り巻く世界を見たり、聞いたり、触ったり、嗅かいだり、味わったりしていくうちに、認知機能が出来上がっていくのです。これを発達といいます。言葉も同じように発達します。この認知機能を通して、欲望をコントロールする力や感情、情緒も発達していきます。そうしてすべての五感から満遍なく刺激が入ってくることによって、認知機能がバランスよく発達するのです。

 ところが最近では、テレビやゲームやパソコンなどによって、見る情報が、聞いたり、味わったり、触ったり、嗅いだりする情報より格段に多くなってきました。 

 その結果はどうでしょうか。それは脳の働きが偏ってしまうということです。そのことはとりもなおさず、その人の人格が偏るということです。ですから与えられた五感すべてを使って脳を働かせていくことが、全人格の形成においても不可欠なのです。

 脳が障害を受けると、せっかく築き上げてきた脳の働き、認知機能が損なわれてしまいます。でもその前に、認知機能が十分発達するように、子どもたちを守り育てていかなくてはならないと思います。






(上毛新聞 2007年11月21日掲載)