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上武大ビジネス情報学部准教授 花田 勝彦(高崎市大橋町)

【略歴】 京都市生まれ。早稲田大卒。エスビー食品を経て、2004年から現職。アトランタ五輪1万メートル、シドニー五輪5000メートル、1万メートルの日本代表。アテネ世界陸上マラソン日本代表。

競技者である前に

◎「合宿中に1冊」の勧め

 上武大駅伝部の監督となって今年で四年目を迎えた。私の勧誘で入部した学生が三学年そろって、チーム力もずいぶん上がってきた。十月末に行われた箱根駅伝予選会には、初めて本戦出場を目標に掲げて臨んだ。結果は総合十三位。チームとしての本戦出場はならなかった(上位九校が本戦出場)。残念な結果だったが、出場校との差は確実に縮まってきているので、あきらめずにまた来年チャレンジしたい。

 創部当時は十三人だった部員数は、今ではマネジャーなどを含めて六十人を超えた。大半の選手は、今や正月の一大イベントとなった箱根駅伝への出場を目標にして日々トレーニングに励んでいる。北海道や九州など遠い所から来ている者も多く、合宿所内ではいろんな方言が飛び交ってにぎやかだ。

 彼らには強い選手になってほしい一方で、一社会人としても立派に成長してほしいと考えている。駅伝部では夏と冬の休み期間を利用して何回か強化合宿を行うが、選手たちには各合宿期間中に一冊は本を読むように勧めている。

 合宿中のミーティングでは、自分の読んでいる本についてそれぞれ紹介する時間をつくり、合宿終了時には練習結果とともに読書感想文も書かせている。選手たちの投票で、本の紹介がうまかった人には私から監督賞として図書券を贈呈するので、紹介にも一工夫あったりして意外に盛り上がる。スポーツに関連した本ばかりでなく、今話題の小説や恋愛小説、中には風水に関する本を紹介する選手もいて、私も興味をそそられることが多い。

 本を読むことでいろんな知識が身に付くし、紹介を工夫することで表現力も豊かになる。語学の基本である読み書きは、やはり数をこなすことが上達への近道だと思う。陸上の練習と同じで、基本ほど繰り返しやることが大切だ。「あまり本を読んだことがない」と言っていたある選手を大学の図書館で見かけた時や、話し下手だったある選手が饒舌(じょうぜつ)に話している姿を見た時は思わずうれしくなる。

 陸上を職業としてやっていけるのはほんの一握りの選手で、大半は大学で競技を引退して社会に出ていく。大学のスポーツ指導者は素晴らしい選手を育てると同時に、素晴らしい社会人を育てる努力も怠ってはいけないと感じている。

 駅伝部から卒業生を二期出したが、何人かは今でも手紙やメールをくれる。部員だったころは誤字・脱字が多くよく叱(しか)った学生が、卒業して半年もしないうちに立派な文章で手紙を書いてきた。自分の指導力のなさを痛感したが、社会の荒波に揉(も)まれて成長した教え子を誇りに思えた瞬間でもあった。






(上毛新聞 2007年12月4日掲載)