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県空手道連盟常任理事 中村 武志(太田市安養寺町)

【略歴】 群馬大教育学部卒。空手道の県連盟常任理事、県中学校連盟理事長、全国中学校連盟事務局次長。太田綿打中教諭で、同校空手道同好会顧問を務める。

空手道場少年部

◎ゆっくり成長する場

 私が、空手道場の指導を手伝い始めて十五年ほどになる。現在、小学生を中心に五、六十人が稽古(けいこ)に励んでいる。暑い日も、寒い日も、休まず通ってくる子供たちの元気な姿に、疲れも寒暑の辛(つら)さも忘れる。やっと少しだけ指導者の自覚が出てきたところである。

 父が道場を開設したのは、一九五八(昭和三十三)年。来年には開設五十周年を迎える。少年部設置は、道場を自宅近くに建設した七二(同四十七)年であった。私も少年部一期生として、兄とともに入門した。まだ保育園生で、休憩時間に暴れ回って、先輩方に迷惑をかけた。傍若無人な道場主の息子ほど手に負えないものはなかったろう。そんなことお構いなしに、お兄さんたちに勝負を挑むことは、最高に楽しいものであった。この楽しかった経験が、今でも私を空手道にかかわらせているのかもしれない。

 当時は、空手道の理解が一般には進んでおらず、野蛮で危険なものとされていた。父が自前の道場を建設したのは、これらの偏見に対する反発もあったという。そんな時代だから、子供たちに空手を習わせることはもってのほかである。しかし、道場に子供たちが溢(あふ)れ返るまでに、多くの時間は要しなかった。

 少年部の稽古は、いつも同じメニューである。子供たちの成長と技術の向上に合わせて、別コースも用意しているが、入門したての子供たちは、必ず同じメニューを経験する。礼法を習い、基本の動作を行い、走ったり跳んだりし、基本の形を稽古する。私が指導にかかわって十五年、いや、私自身もこの稽古をしてきたので三十年以上変わらない、筋金入りのマンネリズムである。

 基本動作の説明以外は細かな指導はほとんどしない。子供たちは辺りをキョロキョロしながら手本を探し、失敗を繰り返し、工夫してできるようになっていく。いつも同じなので、一回くらい休んでもすぐに追いつける。目先の変化や勝ち負け、成績に一喜一憂するのではなく、子供たちが自分で行動するのを待っていると、できない子でも、ゆっくりではあるが必ず変化し、成長しているのに気づかされる。そして、その時の子供たちの目はいきいきと輝いている。

 学校で家庭で、そして習い事の場でも、常に結果を求められがちな子供たちに、ゆっくりと成長する場があってもいいのではないだろうか。めまぐるしく変化し、情報の溢れる現代社会において、いつも変わらない居場所になる。そんな空手道場があってもよいのではないかと思う。そして、「もっと上手になりたい」「もっと強くなりたい」と、自分で思う時が来るのをゆっくり待ちたい。これからも、自信と誇りを持って、マンネリズムを貫いていきたいと思う。

 最近の子供たちにはスキップができない子が多い。軽やかに駆ける子供の横で悪戦苦闘している子供がいる。でも大丈夫。「来週はできるようになるかもよ。それでもだめなら再来週もあるよ」






(上毛新聞 2007年12月6日掲載)