視点 オピニオン21
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障害福祉サービス事業所ぐんぐん所長 山口 久美(高崎市石原町)

【略歴】 日本福祉大卒。約20年、知的障害者の福祉に携わる。2007年3月、高崎市内に自閉症の人たちの自立を支援するためのパン工房とカフェを開設した。

ノーマライゼーション

◎みんなちがっていい

 障害福祉の世界で仕事をし始めて、もうすぐ二十年になろうとしています。途中、子育てを機に、一度仕事を離れて、もうこの世界での仕事はしないだろうと思っていたのに、気がつけばまた、どっぷりと障害福祉の現場に漬かっている私。

 出産とほぼ同時に、長野の里山の外れに移り住み、温かい人と自然に囲まれて、のんびりと子育てをしてみると、それまで暮らしていた都会の時間、人、仕事のひずみやゆがみが、はっきりと見えてきました。

 福祉の仕事をしていて、ノーマライゼーションということを、折に触れ考えたり、話したりしていました。ノーマライゼーションというのは、障害のある人をノーマル(普通)にすること、ではなくて、障害のある人もない人もいることが当たり前(普通)の社会をつくること、です。「ノーマライゼーションって、少しずつ前進している!」と思っていたのですが、子育てを通して見た社会は、ノーマライゼーションとは全然違う方向へ進んでいました。

 生命を大切にできない子どもたち(おとなも)が増え、「考える」力が育っていない若者が増え、人と人とのつながりがどんどん希薄になっている社会、人だけが大手を振って歩いている地球。すべての人が、一人一人、自分を大切にできる社会にならなければ、他の人を大切にし、みんなの幸せを考えることはできないでしょう。娘が、自分を大切にできる人に育つことができ、また、娘を、自分を大切にできる大人に育てることができる社会であってほしい。そう思い始めたら、また、障害福祉の世界へ戻るチャンスが巡ってきました。

 ノーマライゼーションは、福祉の世界だけの問題ではありません。いろーんな人がいることが当たり前の世界をつくるグローバルな問題です。そんな問題を、「障害福祉」と「子育て」という切り口で考えてみたいと思います。

 今私がいる「ぐんぐん」には、障害福祉の世界でもマイノリティー(少数派)である、自閉症の人たちが、毎日通ってきています。コミュニケーションの仕方、理解の仕方、人との関係の作り方が、「私たち(多数派)」とは違う、という彼らの障害は、「私たち(多数派)」には理解しにくく、「違い」を受け入れるのが苦手な「私たち(多数派)」の世界では、奇異なものとして見られがちです。そんな世界で、これまでも、そして、今も、たくさんの自閉症の子どもや人が、生きにくさを感じながら暮らしています。

 理解のとても難しい彼らの障害に寄り添って、彼らが生きやすい社会をつくることができたら、今よりも少し、みんなが楽に、楽しく、幸せを感じて生きられるようになるだろうと思うのです。そのためのキーワードは「みんなちがって、みんないい」(金子みすず『私と小鳥と鈴と』より)

 できること、できないこと。得意なこと、不得意なこと。好きなこと、嫌いなこと…。親子で、家族で、お友達と、話し合ってみませんか? ね、みんなちがって、みーんないい!でしょう!?






(上毛新聞 2007年12月24日掲載)