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呑龍クリニック院長 福島 和昭(東京都新宿区)

【略歴】 前橋高、慶応大医学部卒。麻酔学を学び、米国留学などを経て群馬大医学部で助教授、防衛医大と母校で教授。2004年4月から太田市の呑龍クリニック院長。

食品業界の不祥事

◎知徳の模範を示して

 本年になって食品製造業の不祥事が世間を騒がせ、庶民生活に直接、ショックと打撃を与えた。今までに起きた主な事件を顧みると、まず不二家の期限切れ材料と大腸菌検出の生菓子の出荷、ミートホープの牛ミンチ偽装事件、石屋製菓の「白い恋人」の賞味期限改ざん、伊勢の老舗赤福の和菓子製造日偽装と消費期限不正表示、秋田の鶏肉加工販売会社比内鶏による比内地鶏の虚偽表示、伊勢の御福餅本家の和菓子製造日偽装。また、船場吉兆は羊頭狗肉(くにく)とも言うべく、他県の牛肉を三田牛として、またブロイラー鶏肉を地鶏と偽り食膳(しょくぜん)に提供、最近になって明太子の賞味期限の改ざんも発覚した。老舗の名前を信じた客に対する背信行為と言わざるを得ない。

 外食産業のマクドナルドは賞味期限切れ商品を販売、仙台の精肉石川屋はJAS(日本農林規格)の認定事業者でないのに勝手にJASマークを商品に張り、JAS法違反で摘発された。

 不正を見抜くことができない行政の責任もあらためて問われる。農林水産省は、原料表示などのルールをJAS法で規定し、定期的に検査を実施しているが、これまでの事案は内部告発で発覚したものだ。十月までに食品一一○番で表示偽装、改ざんの告発が七百件あったが、不正材料が隠匿されたり、廃棄されたりして発見は難しい。発覚した不祥事は氷山の一角といっても過言ではない。

 お菓子の二○○六年度の売り上げは二兆二千億円で、一人当たり年間二万五千円消費している。消費者は経営者の利益のための偽装、詐欺的な行為も知らず、ブランドに信頼を寄せ、金を払っていたのだ。企業経営者は、真ま面じ目めな消費者に対する罪の深さを肝に銘じてほしい。

 行政がJAS法違反で業者に改善を指示した件数の四割が内部告発であり、この告発の主な原因は経営者と社員の雇用関係といわれている。いずこの社長も立派な教育を受けたものと推察するが、それを生かす教養とモラルの欠如を痛感させられる。教育は教育現場で受けることができるが、教養、モラルはそこではなかなか得ることが難しい。教養は自己学習から生まれ、それは自ら考え、自ら判断し実行し、その結果に対して自らの責任を負うことである。企業の指導者は自己学習能力を身につけ「知徳」の模範を示してほしい。この二字が脳裏に刻まれていれば、消費者に対する食品の偽装、詐欺事件も起こらなかったと思う。教育改革を叫ぶ中、こうしたモラルの低下がこれからの日本を背負う若者たちに与える影響に危き惧ぐの念を抱かざるを得ない。

 伝教大師(最澄)は「忘己利他(もうこりた)」を説き、また福沢諭吉先生は「黄金は愚を智にし醜を美にし非を直して向うところ敵なし、よく積みよく散すべし」と述べていることを思い起こしたい。

 終わりに、本年の世相を表す「今年の漢字」に「偽」の字が選ばれたが、消費者が食品業界の相次ぐ不祥事にどれほど関心を持っていたか理解できる。






(上毛新聞 2007年12月29日掲載)