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渋川総合病院長 横江 隆夫(前橋市上小出町)

【略歴】 東京都出身。群馬大医学部卒。同大医学部附属病院助教授(救急部)などを経て、2002年から国立渋川病院長、03年から現職。専門は外科。

医療崩壊

◎国民の視点で再生を

 某国政府は、国民の交通費がかかりすぎていると公共交通料金の削減統制を続けてきました。その結果、やっとのことで経営を続けていた公共交通機関は、さらに路線・運行本数の縮小を強いられ、運転士数の減少もあり、特急など経営効率のよい幹線を残して次々と廃止されるようになりました。

 女性や小児専用列車も数少なくなりました。今まで鈍行や急行を利用していた人たちも、それが廃止されたため特急を使用せざるを得なくなり、特急の混雑がとても激しくなりました。駅まで乗客を運ぶ無料の急行バスは、急ぐ必用のない乗客の増加に対応できず、有料化の検討もされています。さらに、混雑のため乗れる列車がなかなかみつからないケースが続出して社会問題化しています。また、駆け込み乗車をした乗客が、閉まるドアに足をはさまれてけがをしたり、電車の中で転んだのは運転士のせいだと訴え、運転士が逮捕されたり、高額の慰謝料が運転士や鉄道会社に科せられる判決が多くなりました。

 政府は、組合にまかせておけないと、電車の新人運転士の養成・研修先を自由に選べる制度にしたので、地方路線で研修・就職する運転士が激減しました。運転士の特急路線への集約化、特急本数の増便を進めましたが、もともと人数が少なく昼夜を通して休む間もなく働いていた運転士の仕事はますます増加し、過労死や疲れたといってやめる人が続出しています。

 それでも政府は運転士の数は足りており、偏在が問題だと言い続けていました。地方路線の確保を強く望む声に対して、政府は研修が終わったばかりの経験の浅い新人運転士を地方に強制的に配置する案を出しましたが、運行の安全性に問題があるとの批判が出ています。

 以上は、たとえ話ですが、こんなおかしなことが起こるはずがないと思うでしょう。しかし、日本の医療は実際このような危機的状態にあります。

 医療費の抑制政策、医師数抑制政策による医師絶対数の不足と新臨床研修制度が主な原因で、これらの改善が急務と考えられます。医療費抑制のために多くの公立病院は赤字になっていますが、総務省は、追い打ちをかけるように、このような地域病院の再編計画を進めるよう指示を出しました。地域に五病院ある場合、一つの中核病院に病床を集め(総病床数は削減)、他の四病院は無床診療所にするという案まで示されています。実行されれば集約化された中核病院に患者が集中し、さらに多忙となった医師の退職が相次ぎ、救急医療も崩壊するでしょう。

 十年間で、道路特定財源の数十兆円を道路建設に投入することが決まりましたが、なぜか医療費は削減され続けています。教育と同じく医療は最も大事な社会基盤のひとつです。福田首相は、医療を含む「地方再生戦略」を所信表明演説で示しましたが、国民の視点に立った形で実行されることを望みます。






(上毛新聞 2008年1月4日掲載)