視点 オピニオン21
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俳人 鈴木 伸一(東京都大田区)

【略歴】 1997年より「上毛ジュニア俳壇」選者として多数の青少年俳句に接する。併せて各地の小中高校で俳句授業を行い、青少年が俳句に親しむ環境づくりに努めている。

説明を省く

◎言葉通して他者を理解

 前回(二○○七年十一月九日付)は「発想を変えてものを見ること」を中心テーマに、主として小学六年生対象の俳句授業における実践例を紹介した。今回はその続きを、もう少し詳しく述べてみたい。

 さて、くだんの「発想の転換」は、(1)観察する(2)発見する―という俳句創作に欠かすことのできない要件の延長線上にあるもの。この二点と、後述する(3)説明を省く、を併せ、「俳句づくり三つのキーワード」として、どのような授業であっても、私が必ず触れるようにしている最も重要な項目ということになる。

 ただし、「観察」「発見」といっても、学究的なものを念頭に置いているわけではない。むろん、学究的な「観察」「発見」であっても、それはそれで素晴らしいが、子どもたちには、小さなことからスタートしてほしい。それは、自分の身のまわりをあらためて見直してみる。そこから、今まで見落としていた何かに気づく。そして、そのときの喜びや驚きを素直に表現する。まずは、こうしたことから始めたい。「驚く名人になろう」というのも、授業の流れの中で、私がしばしば話す事柄であり、また実際に、子どもたちはみな驚く名人なのである。

 ともあれ、ここまでは俳句創作の前段階というべきものであるが、次はいよいよ、観察し、発見したことを俳句の形にまとめるという本題に進むことになる。そこで重要となるのが、先述した「説明を省く」という項目。なぜ重要かというと、限られた短い音数しかない俳句では、感情などをありがちな言葉であらわすと、説明的で平凡なものとならざるを得ず、それを避けるために、別の言葉に置き換えて表現することが必要だからである。そして、別の言葉に置き換えるためには、たくさんの言葉を覚えることが大切であり、言葉をたくさん覚えることが、やがて自分のまわりの世界を広げ、心を豊かにしてゆく。さらに、心が豊かになれば、おのずと他者の気持ちも理解できるようになってゆく。俳句を通し、私が子どもたちに伝えたいものは、ここに集約されると言ってもよい。

 授業の後半は、子どもたちと同年齢の作者の俳句を例示したプリントをもとに、あらかじめ各自が選んでおいた好きな作品の感想を発表し合い、一時間を終えるというのが通例である。その際、「作者の気持ちを考えながら読む」ということを主眼に置き、授業を展開するよう心がけているのは言うまでもない。

 何にせよ、「作者の気持ちを考えながら読む」ことは、言葉を仲立ちとした「他者と自己との相互理解」へとつながってゆく、一つの手だてとなり得るだろう。これは、思春期にあってさまざまな人間関係に思い悩む中学生・高校生には、とりわけ重要な意味を持つものではないだろうか。したがって、次回はこのような点を中心に、主に中学校での俳句授業について触れたいと思う。






(上毛新聞 2008年1月9日掲載)