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園芸研究家 小山 征男(高崎市引間町)

【略歴】 横浜市出身。高崎市で山野草を扱う中央植物園を営み、代表取締役。全国山草業者組織「日本山草」役員。「NHK趣味の園芸」講師。著書は『山野草』など。

肥料の4要素

◎加えたい心という養分

 N(窒素)、P(リン)、K(カリウム)といえば、園芸好きの人なら即座に答える「肥料の三要素」。植物の生育に必要な三元素で、それぞれ、葉肥、花肥・実肥、根肥と呼ばれます。しかし、人が植物を育てる場合には、それ以上に大切な養分として、個人的に考える「Ko」というものがあります。教科書などにはありませんが、それを加えて「肥料の四要素」と思っています。

 肥料とは、植物の生育に必要な養分として、または植物を生育させるための土壌の改良を目的に施すものです。もちろん、施されなくても元気に生育する植物はいくらでもあります。山野の豊かな緑も、何千年も生きているという屋久島の杉も無肥料です。

 植物体は、有機物を作る炭素、酸素、水素、窒素のほかに、リン、カリウム、石灰、マグネシウム、硫黄、鉄、そのほか多くの微量元素によって構成されています。これらのうち一種でも欠乏すると、植物は健全に生育できません。一部空気中からも供給されますが、母なる自然の大地には、これらのほとんどを植物に与え育(はぐく)む「地力」があります。

 しかし、その大地を効率よく利用しているつもりでも、地力以上に植物を栽培し続けると、やがてその大地は疲弊し、満足に育たなくなります。植物を育てるには、畑でも公園や庭でも、適切な地力の管理が必要です。ましてや、母なる大地から隔離して、根の生育条件を限定した鉢栽培などでは、特に日常の管理が大切です。毎日、植物の顔色を見て、水や肥料、日照、温度の過不足、病害虫の有無などを判断し、速やかに対処することが肝要です。

 近ごろのテレビでは、朝夕に料理番組が花盛り。栽培の達人の新鮮な野菜を、料理の達人が手際よく調理する。素晴らしい食材と一流の調理技術が揃(そろ)えば、鬼に金棒。夕食時ならば、画面をおかずに食が進みそうな料理がたちまちできあがります。「たとえ簡単な料理でも、召し上がっていただく人を思って作ったものは必ずおいしいのです」とのこと。

 「水は毎日やってるのに、いただいた鉢植えが、しおれて枯れそうなんです」。見れば、過ぎたるはな及(およ)ばざるがごとしで、まさに過湿による根腐れです。水やり三年といいますが、それくらい付き合わなければ、植物の顔色は見えてこないのでしょう。そうして、植物が好きになってくれれば、しめたもの。それからは見違えるように育ってくれるはずです。

 「それは、心という調味料、ですかな」。ある達人が料理の極意を尋ねられた時の答えです。植物は、同じように管理しているつもりでも、栽培に慣れるなどして心が離れると、急速に生育が悪くなります。やはり、栽培には「Ko」という養分が必要なのです。「Ko」とは、心のこと。植物が枯れてしまうのは、「Ko」要素が足りないからなのでしょう。

 植物栽培では肥料として、料理では調味料として、そしてまた、さまざまな分野で応用のできるこの万能要素を、さらに多くの人が使用されることを切に願う次第です。






(上毛新聞 2008年1月10日掲載)