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伊香保おかめ堂本舗取締役 真渕 智子(渋川市伊香保町伊香保)

【略歴】 群馬大工学部卒。渋川市伊香保地区地域審議会委員。元NTTデータ職員。2001年から、伊香保温泉の石段街にある民芸「山白屋」を母とともに切り盛り。

「上毛かるた」のススメ

◎隠された祈りを知ろう

 私たち群馬県民にとって、「上毛かるた」は郷土愛の象徴的文化財です。子供時代から地域や学校で慣れ親しんで育つことから、群馬県民ならば誰もが諳(そら)んじることができ、初対面同士であっても「上毛かるた」を話題に、その距離を近づけることができる、いわば群馬県民の心の拠(より)どころでもあります。

 ところで、私は伊香保温泉で両親が経営する物産店を手伝っており、五、六年前から「上毛かるた」を販売しています。社会人として、群馬県を離れて暮らす方が「懐かしい! わが子にも見せたい!」と購入したり、群馬県民を友人や家族に持つ方が「喜ばせてあげたい」とお土産として購入されるケースがほとんどです。また、初版発行五十周年を記念して製作された英語版は「留学先のホストファミリーに」と海外への手土産として、あるいは自分の生まれ育った故郷やアイデンティティーを外国の方にわかりやすく伝えるコミュニケーションツールとして購入されるなど、国際化の進んだ現代生活にも役立てられているということがわかります。

 ところが、「上毛かるた」を諳んじることはできても、その誕生に懸けた先人たちの「祈り」や歴史的背景を知る群馬県民は案外少ないのかもしれません。

 「上毛かるた」は戦後まもなく、占領政策により日本の歴史・地理・道徳教育が制限される中、「一粒の麦の種を蒔(ま)く思い」で当時の大人たちが「日本民族としての誇り」、そして「郷土愛」を次代を担う子供たちに託すという夢の結晶として誕生させたものです。その「祈り」を伝えるため、記述をめぐる占領軍の厳しい検閲・指導を逃れ、「上毛かるた」には実にたくさんのメッセージが隠されているのです。一つ一つご紹介したいところですが、紙面の都合もあり、叶(かな)いません。詳しくは「上毛かるた」に同梱(どうこん)されている「上毛かるたの祈り」をぜひ読んでみてください。

 昨年は誕生六十周年。還暦を迎えた「上毛かるた」を取り巻く社会は、誕生当時の先人たちが思いも及ばぬほど大きく変わりました。「もはや戦後ではない」といわれてから五十年以上がたち、戦争経験者が減少し、歴史の風化が進んでいます。

 子供を取り巻く環境も少子化に加え、遊びも多様化して、家庭用ゲームなどに没頭する子供が増えました。ゆとり教育の半面、塾や習い事で子供たちの時間は奪われ、家庭や学校で子供たちが集い、かるたに興じる姿を見ることが少なくなりました。テレビをはじめとするメディアの発達により、祖父母が話していたような上州弁を使う子供も減ったように感じます。

 この時季は「上毛かるた」の大会が伝統的に行われます。そんな時こそ、ゲームやテレビをちょっと休んで、自分たちの根っこを見つめ、群馬に生まれ育ったことにもう一度感謝しながら、家族や友人たちで一緒に楽しんでみませんか。絶対に盛り上がります。






(上毛新聞 2008年1月13日掲載)