視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
美原記念病院看護部長 高橋 陽子(伊勢崎市宮子町)

【略歴】 伊勢崎高等看護学院卒。美原記念病院に入り、2004年から看護部長を務めている。06年からは伊勢崎敬愛看護学院で在宅看護論を教えている。

ALS患者の意思伝達

◎装置の早期導入が急務

 筋委縮性側索硬化症(ALS)は、症状が進行していくと、四肢の筋力が弱まって自由に動かせなくなる。呼吸に関係する筋力も弱まって換気が十分にできなくなるため、体内に二酸化炭素がたまり、身体に取り込む酸素量も低下して呼吸不全に陥り、呼吸補助を行わなければ死に至るという難病である。現在、県内では百三十七人の患者が登録されている。

 ALSと診断された患者、またその家族は、疾患の進行に対して大きな不安を感じ、私たちには想像ができないほどの精神的ストレスを感じている。特に進行が進むにつれ、コミュニケーションが困難となっていくことの不安は計り知れない。そのため、残されたわずかな運動機能のみで意思を伝えることができる意思伝達装置が二○○六年十月より、身体障害者手帳の公的な援助の対象である補装具として加えられた。

 意思伝達装置は、外観上は一般的なパソコンであり、指先や顔面の筋肉の働きでカーソルを移動することにより文字を選択し、ディスプレー上に文章を作成するものである。給付の対象となるのは、ALSのほか、重い頸髄(けいずい)損傷や関節リウマチ、脳性麻痺(まひ)などにより、思考は正常だが身体の自由が著しく制限されている患者となっている。

 日本神経学会の「ALS治療ガイドライン」では、ALSと診断された時点で、病気の受容や理解、支援体制の構築と同様に、意思伝達装置の導入が早期に始められるべきであるとされている。しかし、早期から装置の活用を試みようにも、現行では、(1)言語・音声・そしゃく機能障害三級以上(2)肢体不自由一級が身体障害者手帳に記載されること―が給付の要件。そのため、両手両足が機能全廃になるだけでなく、自発呼吸困難な状態で言語機能を失って、はじめて公的な援助の対象とされることになる。

 すなわち、移動はおろか、ベッド上の生活でさえままならない状態になってから、患者を身体障害者手帳取得のために指定医のもとへ向かわせ、給付までおよそ一カ月かかる申請手続きをとることが必要になる。さらに、手元に手帳が届いてから、今度は補装具としての申請のために県内一カ所の更生相談所へ出向くか、年数回の巡回を待たなくてはならない。この間にも、患者やその家族の受容や理解、支援体制に関係なく、症状は日々刻々と進行していくのである。

 意思伝達装置を使用するには、個々の患者によっても異なるが、ある程度の練習が必要であり、また、病態に合わせて、患者の使用しやすいスイッチを工夫することも必要である。従って、早期から患者に使用できる体制が求められ、給付が円滑に行われるようなさまざまな対応が急務である。

 ALSをはじめとする神経難病ケアには多職種によるチームアプローチが重要とされているが、この「多職種」が意味するところは医師、看護師、リハビリスタッフなどの医療職のみならず、地域の関連した人たちとの連携が深まることである。それにより、はじめて地域で神経難病患者を支えることが可能になると考えている。






(上毛新聞 2008年2月3日掲載)