視点 オピニオン21
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eラーニングプロデューサー 古谷 千里(吉井町)

【略歴】 北海道函館市出身。IT利用の英語教育が専門。国立大教授、米国コンテンツ制作会社ディレクターを経て、現在、英語学習ソフト開発に携わる。早稲田大非常勤講師。

英語は三種の神器

◎話さなければ通じない

 ガソリン、大豆、小麦等々の値上げ台風が上陸。二次被害が生活必需品の物価に影響を与え始めている。これは、原料を輸入せざるを得ない資源小国日本の宿命だ。エネルギーも食料も、電子製品の材料さえも輸入に頼る私たち日本人は、本来は商売上手でなければならない。口八丁手八丁でなければ生きてはいけない。ところが、その口が重い。

 地球を歩き回って商売するには、お金と足と英語が必要だ。これが地球歩きの三種の神器(じんぎ)である。お金はつくった。足も何とか。問題は英語だ。コミュニケーションの道具があれば、旅先で食べ物を購入し、宿に泊まり、商売を続けることができる。英語下手の日本人は、これまでどうやって商売をしてきたのだろう。英語のできる少数の人たちに、すべてを任せてきたのだろうか…。

 十年やっても英語を話せない。テストで高得点をとっても、英語で仕事ができない。このままではまずいが、学校は頼りにならない。ということから駅前留学をしていた人が四十万人もいたなんて! その留学先が閉鎖され、物価値上げ以上の被害を受けた。

 英語の教室を訪問する機会がある。先生方は英語で授業をし、外国語指導助手(ALT)もいる。音声教材はいつでも使える。先生も生徒も熱心に授業に取り組んでいるけれど、そのプールには「水」が入っていない。水のないプールで十年間泳ぎを習っても、泳げるほうが奇跡だろう。教室に水を入れてあげたい、インターネットを引いてあげたい、と授業参観するたびに思う。

 インターネットを英語の授業に取り込むと、さっそくメールの交換が始まる。自己紹介で最初に書く文は、中学生なら「私は二年三組の高崎高子です」、大学生なら「群馬ゼミの前橋です」あたりだろう。しかし、外国人相手に「二年三組」という情報を与える必要はあるのだろうか。何ゼミに所属しているかなんて、外国の人にはカンケイナイ。発想がローカルすぎる。

 日本の工学部の大学生が米国の高校生とメール交換をしていたころ、昭和天皇が病気になり、テレビでは毎日、体温や脈拍などが発表された。たしか、それ以外の情報は伝わらなかった。すると、米国の高校生から質問が入った。「あなたの国のキングが病気でお気の毒です。でもどうして、一日に何回も体温や脈拍が発表されるのですか?」。日本の大学生は答えられなかった。英語で、ではない。日本語でも説明できなかったのだ。

 ハワイ巡業中の相撲に関心を持った米国の高校生から「相撲の見方を教えてください」というメールが入ったとき、別の日本人大学生は、見ればわかるよ、と一蹴(いっしゅう)した。相撲文化は見ただけでわかるものだろうか。

 「言わなくてもわかるだろう」はグローバルには通用しない。言葉できちんと説明しなければならない。中国もロシアも南米もアラブの国々も経済的に立ち上がってきた今日、コミュニケーションの道具を磨いて口八丁手八丁で商売をしなければ、近い将来、日本人が食べていけない日が、きっとやってくる。






(上毛新聞 2008年2月5日掲載)