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書家 小倉 釣雲(前橋市上新田町)

【略歴】 本名・正俊。東京学芸大書道科卒、同専攻科書道修了。県内の各高校で書道を教える。毎日書道展会員、県書道協会理事・事務局長、上毛書道30人展運営委員長など。

若者の書

◎瑞々しい感性伸びよ

 県内の書道人口はどれくらいでしょうか? 私が所属している県書道協会は会員が千三百人います。会員の周辺で筆墨に親しんでいる方も相当いると思われます。こうした方々が発表の場としている展覧会もたくさんあります。個展、グループ展、社中展と、今は一年中どこかで書作品が展示されていて楽しめます。

 県内で最大にして最も権威のある書道展は、県書道展です。昨年末に開催された第五十八回展を具体的に紹介してみます。漢字、かな、墨象、少字数および近代詩文、篆刻(てんこく)の五部門から成り立っていて、それぞれ特有の美を表現します。審査をはじめ運営に携わる委員の作品三百十点、出品委嘱二百六十四点、一般公募千九百九十三点の合計二千五百六十七点もの出品がありました。審査を経て千七百五十四点が前橋市民文化会館などに展示され、県民の目を楽しませました。規模やレベルは全国に誇れるでしょう。

 しかし、気になることがありました。それは知事賞をはじめとする入賞者の平均年齢が五十八歳と、高齢化社会が書の世界にも見えることです。最高齢の方は、なんと、八十八歳です。その努力には敬意を表します。確かに書道は技術を錬磨し、人格を磨き、年季を入れる芸術ではありますが、やはり若者の育成が急務です。そんな期待をこめてスタートし、中堅を育て、若者を発掘し、一定の成果を挙げてきたのが、上毛書道三十人展でしょうか。

 次代のために、私が長いことかかわってきた高校生の書を紹介してみましょう。ゆとり教育の掛け声のもと、授業削減の荒波を芸術科がもろにかぶり、時間が減り、必然的に指導者が減らされましたが、教師たちは厳しい条件の中、高校生と真摯(しんし)に向き合っています。先月十一―十三日に開催された「高工書道展」は十五回目を迎え、校内はもちろん、市民にも定着し、待たれる行事となっています。高崎工業高は二単位必修の芸術を、昔から書道とし、履修学年全員に課す、おそらく全国でも唯一の工業高校でしょう。

 今年は三年生二百八十人全員が例年のように「自己のおもいを自己のことば」でつづり、筆墨の力を借りて表現していました。ある生徒は三年間の最高の場面を「あの試合、あの一球…」「遠かったゴール」「つかめなかった夢」と書き、「教室のにおい」「工場の油のにおい」が好きと嗅覚(きゅうかく)までも動員し、「いつもやすらぎの場であった机」「おいしく楽しみであった給食」に感謝していました。いつものことながら、親父(おやじ)の背中に圧倒されながらもいつかは越えてみせると男らしく―。そして、やはり「かあさん ありがとう」と。

 環境問題が喧(かまびす)しいとき、「朝はにわとりすずめ夜は虫…畑と小川と星」と、やさしく周囲を見る目を持った高校生もいました。「僕はこれから社会の歯車になる、歯車としての日々の中に生きがいを見つけたい」。こんな声に大人はどう答えることができるでしょうか。こんなに瑞々(みずみず)しい感性を伸ばし、しっかりとした筆墨の技術を身につけた時、すばらしい書が世に出ることでしょう。






(上毛新聞 2008年2月13日掲載)