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動物写真家 小原 玲(名古屋市千種区)

【略歴】 前橋高、茨城大卒。動物写真家としてアザラシ、シロクマ、マナティー、ホタルの写真を発表。カナダの流氷で18年の取材歴があり、地球温暖化の目撃者である。

温暖化を防ぐ子ども

◎自分の言葉で自然語る

 地球温暖化対策には「自然を好きになること」が一番大事だと、子どもたちに話しています。「大切にしよう」「守ろう」というのは「好き」の次に来るものだからです。

 ではどうしたら子どもが自然を好きになるのか。本来子どもはその旺盛な好奇心から自然が好きなはずです。ところが、小学生の高学年になるころから、都市部で暮らしている子と、田舎で自然に囲まれて暮らしている子とでは、自然を見て語る言葉が大きく変わってきます。

 小説家の妻が一時期、小学生の自然に関する詩のコンクールの審査員をしていました。都市部の子どもの五、六年生の詩には驚くほど同じような言葉が現れます。「自然を大切にしよう」「森の木を切らないで」「地球環境を守りたい」などといった言葉です。どれも模範的な言葉であるのですが、自然を見た子どもの気持ちから素直に出てきた言葉というより、こういうことを大人から教わり、こういうことを書くと大人が喜ぶだろう、そう思って書いた言葉に思えます。

 ところが、これが地方の田舎の子どもではまったく異なります。妻が好きな詩に、トンボが指に止まって目があったときの気持ちを「ボクの心がシーンとした」と表現した詩がありました。大人に教わった表現でなく、自然の中での体験を自分の言葉で表現していて素晴らしいと思います。このように自分の言葉で自然を語れる子が、自然を好きな子であり、今後自然を守り、地球温暖化を防いでくれる子だと私は思います。

 自然を見る力は本来子どもの方が優れています。私が撮影しているカナダの流氷は、毎年、世界中から多くの観光客が見にやってきます。日本からも百人近くが訪れます。そして生まれたばかりのアザラシの赤ちゃんとの出合いを楽しむのですが、大人は一日中アザラシの赤ちゃんばかりを見ています。ところが、同じ場所に子どもを連れていくと、最初はアザラシの赤ちゃんを見て、触ったりして遊ぶのだけれど、しばらくたつと流氷で遊びだします。

 大人の中には「○○ちゃん、せっかく来たのだからもっとアザラシを見なくちゃ」と子どもに呼びかける人もいます。

 違うのです。子どもはアザラシ以上に流氷の方がよりダイナミックな自然で素晴らしいことを見抜いているのです。アザラシの赤ちゃんもいいが、アザラシの赤ちゃんとボクがいる、この流氷って場所はなんて素晴らしいんだ。なんていろいろな形があるんだ。なんて広大なんだ。それに気づいているのです。

 比べて大人は、耳から入った情報「アザラシの赤ちゃんは珍しい」「アザラシの赤ちゃんを見に行くのにいくらかかる」などにとらわれて、流氷というその舞台を見てくることを忘れてしまうのです。

 私たちは子どもの自然を見る力を信じ、その力を大人のように衰えさせないことを大事に考える必要があるかと思います。






(上毛新聞 2008年2月24日掲載)