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渋川総合病院長 横江 隆夫(前橋市上小出町)

【略歴】 東京都出身。群馬大医学部卒。同大医学部附属病院助教授(救急部)などを経て、2002年から国立渋川病院長、03年から現職。専門は外科。

乳がん検診

◎受診率を5割以上に

 わが国は世界でも乳がん罹患(りかん)率、死亡率が低い国のひとつです。しかし、近年、これが上昇し続けています。原因として食事やライフスタイルの欧米化が挙げられています。罹患率は、とくに四十歳代から急上昇します。がん統計白書によれば、全年齢では一九七五年は十万人に十九人だったのが、九三年には四十三人に、とくに四十五歳から四十九歳の年代における上昇がピークで五十五人から九十四人に増加しています。そして、罹患する可能性は五十六歳以上になっても、四十歳代後半と比べてあまり低下しません。

 罹患率は一定の人口(十万人)当たりの病気の発生率を表したもので、毎年この確率で病気になるということです。計算上、四十歳の人が九十歳までの間に乳がんになる可能性は九十(人/年)×五十(年)で、約四千五百人が乳がんにかかることになります。

 百人当たりでは四、五人になります。欧米の罹患率は、この十倍以上で死亡率は五、六倍になります。しかし、日本やアジア諸国と異なり、欧米では八八年以降、死亡率が低下してきています。これは検診の効果といわれています。乳がん検診の受診率は、欧米では80―90%台ですが、日本では最近増加傾向にあるものの、二〇〇五年の全国統計ではわずか17・6%と低率です。地域によって差はありますが、本県では平均10―15%で、〇六年の受診者総数は集団検診で二万千八百二十五人、個別検診で八千八百五十八人です。検診により乳がん死亡率を減少させるには、受診率を50%以上に引き上げる必要があります。

 乳がんの発見率は、視触診で行われていた時代は0・06%でしたが、マンモグラフィー(乳房撮影)が導入されてからは0・33%に上がっています。また、早期がんの割合も増加しています。早期発見できれば、乳房の一部だけを切除する乳房温存療法も可能です。一部ではまだ視触診だけの検診を行っているところもあるようですが、日本や諸外国で行われた研究では、視触診だけの乳がん検診では救命効果は得られないことがわかっていますので、必ずマンモグラフィー検診を受けましょう。

 対象年齢は四十歳以上で、二年に一回の受診が世界の標準です。一回の検査で被ひ曝ばくする放射線の量は、飛行機で海外旅行したときに宇宙から受ける放射線の量と同程度で、わずかです。マンモグラフィーは痛そうで怖いと思っている人もいるようですが、検診施設の放射線技師は「マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(精中委)」が開催する技術講習試験を受けていますから、上手に撮影してもらえます。認定放射線技師、認定読影医名およびその施設名は、精中委のホームページで公開されていますのでインターネットで調べられます。

 四十歳代に超音波検査を併用すると、乳がん発見率が増加するといわれています。検診効果については、まだ結論は得られていません。超音波併用検診については、現在、国内で大規模な臨床試験が行われており、本県でも近日開始される予定です。






(上毛新聞 2008年2月28日掲載)