視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
全国地域活動連絡協議会会長 中村 京子(大泉町仙石)

【略歴】 栃木県佐野市出身。1985年に児童館の母親クラブに入会。99年から県の地域活動連絡協議会会長。2007年4月から現職。

わらべうた

◎知恵や心育む伝承文化

 全国地域活動連絡協議会は毎年、全国四カ所で研修大会を実施しています。昨年度、印象深かったものは「わらべうた」と「民話」の研修です。幼いころ、母や祖母から聞いた昔話やわらべうたには、実に多くの意味が含まれていることを教えられ、私は大きな驚きと感動を覚えました。

 私が子どものころには身の回りや遊びの中にわらべうたがたくさんありました。それがいつのころからか隅っこに追いやられ、忘れられかけています。

 わらべうたは「人を育てる歌」ともいわれ、子どもの遊びや生活の中で口伝えによって伝えられてきました。幼児から大人まで誰でも口ずさみやすく、遊び歌、手遊び歌、はやし歌、子守歌などがあります。また、地域性があり、地方ごとの歌があったり、同じ歌でも地方によって歌詞が異なったりもします。

 ここに一つの歌があります。「チョッチョッ アワワ カイグリカイグリ トットノメ」。これには、顔を覆い↓口に手をあて↓耳を回し↓目を開く、という一連の動作が付きます。岩手県の「遠野地方のわらべうた」の伝承者、阿部ヤヱさんによると「チョッ」とは遠野の方言で「恥ずかしい」を意味し、「恥じらい」「口を慎み」「人の話をよく聞き」「相手(世間)をしっかり見よ」という四つの意味が込められているのだそうです。

 「セッセッセ〜」のような二人遊びの歌では、相手と呼吸が合わないと上手にできません。この歌からは他の人と息を合わせることの大切さを学び、「ジャンケン〜」では勝ち負けや口惜(くや)しさを知り、次は頑張ろうという気持ちを育てます。

 また、歌だけでなく遊び方も子どもの成長とともに展開し、さまざまな意味を含みます。乳幼児のころは親子で遊びを共有でき、徐々に子ども同士の集団遊びへ移行する中でルールや社会性を身に付けます。そして、「つねる・たたく」などの遊びから痛みの程度を体験します。その上、「まりつき歌」のように身体を動かすものが多く、リズム感や運動神経への刺激にもなるのです。

 このように多くの意味を持つわらべうたですが、前述の阿部さんは「わらべうたは本来歌って伝えるもので意味の説明などしないものです。しかし、歌の元になる暮らしや遊びが途切れてしまった今、歌の意味を理解してもらわなければ歌が伝えられない」と語っています。

 かつては母が子に、あるいは祖母が孫に、日々歌い聞かせる中で教えごとでなく自然に、人間として大切な知恵や心を育(はぐ)くんでいたのだと思います。暮らしは元に戻せませんが、歌を歌ってやることはできます。たくさんの意味を秘め、魅力あふれるわらべうたをもう一度、子どもたちに戻してあげたいと思うのです。

 最近、わらべうたに注目し、保育に取り入れている幼稚園や保育園もあるようですが、子育て中の親や保育に携わる方には、ぜひこれらの伝承文化の意味を理解し、積極的に取り入れてほしいと願います。地域で子育てを応援している皆さん、若いお母さんや子どもたちと一緒にわらべうたを歌ってみませんか。






(上毛新聞 2008年3月7日掲載)