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群馬大大学院医学系研究科教授 小山 洋(前橋市若宮町2丁目)

【略歴】 東京都出身。群馬大医学部卒。医学博士。2002年6月から現職。日本公衆衛生学会評議員。環境省地球環境研究企画委員。県のがん対策協議会等の委員。

県がん対策推進計画

◎充実した検診の実施を

 がん対策の一つとしてがん検診がある。しかし、本県におけるがん検診受診率は最も高い肺がん検診で36・0%、最も低い胃がん検診では14・9%であり、全国平均よりやや上回っているものの、総じて20%程度の受診率に留(とど)まっている。

 現在、日本人の半数以上の人が一生のうちに一度はがんに罹(かか)っている。がん対策として予防を心がけることは第一に大切なことであるが、がん検診もますます重要になってきている。これからはがんに罹ることをあらかじめ想定し、そのがんをどう見つけるかを考えるべきだ。発見が遅れた場合には大手術が必要であったり、機能障害が残ったり、あるいは完治が困難なこともある。早期がんの状態で発見できれば、後遺症も残さずに完治し得る可能性が高い。群馬大では重粒子線治療施設を建設中であり、がんはますます治せる病気となる。がんを早期に発見するためのがん検診受診率の向上は今後の重要な課題であり、国のがん対策基本計画では、今後五年以内にがん検診を50%以上にすることとしている。

 県がん対策推進計画が新年度四月から実施される。国の目標に準じて五年以内にがん検診受診率を50%以上にすることが盛り込まれている。他県の計画案もそのほとんどが受診率50%以上であるが、その中で宮城県だけはがん検診受診率70%以上を掲げている。もともと宮城県ではがん検診に力を入れて取り組んでおり、現在、肺がん検診の受診率が61・6%、最も低い乳がん検診でも37・0%の人が受診している。本県の数値目標50%は到達できない目標ではない。

 最大の課題は、がん検診の費用だ。がん検診は市町村の事業であり、受診率の向上はそのまま市町村の負担増となる。このため、財政難を抱える市町村では、住民に対してがん検診受診を勧奨しづらい状況にある。しかしながら、財政難のため十分ながん検診ができずにがんの早期発見・早期治療の機会を逃せば、進行した状態でがんが見つかることになり、治療後の生活の質の低下や医療費の高騰につながる。こうした負の連鎖だけは断ち切らねばならない。

 がん検診の充実に向けて費用負担を真剣に考えるべきである。県のがん対策推進計画案には県から市町村へのがん検診に対する財政支援の検討が盛り込まれている。これは他県の計画案には見られない画期的な考えであり、その実現を強く希望する。さらに多くのアイデアをよせて、充実したがん検診をこの群馬県で実現していくべきである。例えば、受診率の向上に向けた新たな市町村プロジェクトを募って県が助成を行ったり、受診率50%をクリアした市町村に対して県から財政的インセンティブ(報奨)を与えたり、受診する住民ががん検診費用の一部を負担することや、受診勧奨についてのがん患者会など関係団体の協力なども考えられていいのではないだろうか。

 県のがん対策推進計画の実現に向けてがん医療・保健関連者、そして何より県民の協力が求められている。






(上毛新聞 2008年3月16日掲載)