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利根生物談話会会長 小池 渥(沼田市西倉内町)

【略歴】 長野市出身。信州大卒。長野県蚕業試験場松本支場勤務を経て、1954年から県内公立高校で生物教諭を務め、91年に武尊高校長を最後に退職。

植物の有機物生産

◎適切な自然環境が必要

 一般に生物は植物と動物に分けられている。これらを構成している細胞は、基本的には同じであるという。また、一般に動物は動くが、植物は動かないということも表面的なものに過ぎない。

 動菌類がアメーバのように動き回るものもあり、モウセンゴケの表面の毛のように静かに運動するものもある。動物でもサンゴのように、全く動かないものもある。

 動物は有機物を摂取し、植物は無機物を主栄養としていると考えられているが、カビは有機物を取り、食虫植物は小虫をとらえ有機物を食物にしている。

 動物は感覚があり、植物にはないという学者もいるが、植物も外部の刺激を受け、葉や茎が静かに運動し、成長している。物理的刺激(光や地球の重力)に対して反応しているといわれているなど、動植物の厳密な区別は難しい面があるようだ。いわゆる高等動物と植物で概観や生活様式が全く異なることは万人が認めることではあるが…。

 現在の植物生理学では分子生物学的な研究が進み、細胞内の機作が詳細に解明されつつある。なかでも緑葉植物の光合成の仕組みは、米国のカルヴィンや多くの学者によって次第に解明されてきた。電子顕微鏡による研究が進み、葉緑体の構造や成分および複雑な作用も次第に分かってきた。

 光合成は、まず光エネルギーを取り込むことから始まり、光の吸収と化学エネルギーへの転換、電子伝達、光リン酸化反応などの複雑な生理作用(酵素反応)が行われることによって有機物が作られるという仕組みである。

 光合成色素にはいわゆる葉緑素(クロロフィルa、bなど)が関係している。葉緑素の化学構造式を見ると、中心に必ずマグネシウムと四個のチッ素が含まれている。これは動物のヘモグロビンに鉄などの金属原子が入っていることと構造上、なぜか類似しているような気がする。

 緑色植物は、これらの光合成色素が光の吸収と化学エネルギーへの転換(酵素や補酵素による光化学系、電子伝達系)を極めて静かに進行させ、炭水化物、脂肪、タンパク質などを合成しているのである。

 人間の社会における産業や生産工場などのように大掛かりな機械設備や電力などは不要で、植物の緑色細胞の内部において、ごく平穏な状態で生化学反応が進み、植物体に必要な物質が作られ、貯蔵されていく現象は、自然界の不可思議な事実である。

 農家の人が田畑やハウスなどで栽培している農作物には大変な労力と莫大(ばくだい)な経費が費やされている。種苗を育て、肥培管理という作業があっての結果、作物を収穫しているわけである。

 しかし、作物の成分である有機物は、作物(植物)が自体で行う光化学作用の結果の産物であって、農家の人の手による合成物ではない。そして、このことが良好な結果に進行するためには当然、適切な自然環境が必要なのである。






(上毛新聞 2008年3月19日掲載)