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上武大ビジネス情報学部准教授 花田 勝彦(高崎市大橋町)

【略歴】 京都市生まれ。早稲田大卒。エスビー食品を経て、2004年から現職。アトランタ五輪1万メートル、シドニー五輪5000メートル、1万メートルの日本代表。アテネ世界陸上マラソン日本代表。

トレーニング

◎常に新鮮な気持ちで

 新入生を迎える季節がやってきた。上武大駅伝部に入部する学生たちは、今月初旬には入寮・入部式を済ませ、私のもとで練習を始めている。彼らには、今月の練習メニューを一カ月前には通知しているが、こちらに来て一週間もしないうちに、半数近くが故障や体調不良で練習から離脱してしまった。

 離脱者が多いと聞くと、すごくきつい練習をしているように思われるかもしれないが、新入生の練習メニューは、走ることよりもどちらかといえば体幹補強や動きづくりといった基礎的なトレーニングが中心である。箱根駅伝のように、レースで二十キロもの距離を走るためには、それなりに練習量をこなさなければならない。そのぶん、体への負担も大きくなるので、選手は故障しない丈夫な体と、無駄のない理想的な動きを身につけておく必要がある。体幹補強や動きづくりはそのために行うもので、地味できついものも多いが、繰り返し行うことで効果が表れてくる。

 教えてしばらくは、みんな真剣に取り組んでいるのだが、そのうちにやらない者も出てくる。上級生でも、自分で時間を作って継続的に行っている選手は意外と少ないかもしれない。強制的にやらせてもよいのだが、私はあえてやらないようにしている。なぜなら、こういった継続が力となるトレーニングは、自ら進んでやらないとあまり効果が上がらないからだ。もちろん、やらないよりはやらせた方がましなので、たまには復習する意味を込めて全体でやることもある。しかし、チーム内でも抜きん出て強くなりたいのなら、やはり周りと同じことをしていては駄目だ。何のためのトレーニングかを理解し、積極的に取り組んでいくことが大切なのだ。

 これは、人間が成長していくうえで行う「学習」と名のつくものにすべて共通することかもしれない。保育園に通う二歳の息子は、私が家にいると、絵本を持って近づいてくる。「パパ、この絵本読んでー!」と横に座るので、一緒に読んでやると大喜びだ。一通り読んで終わりかと思うと、「もう一回読んでー!」。結局、同じ絵本を何度か続けて読むことになるが、読んでいる私には同じストーリーなのでそんなに面白いとは思えない。しかし、息子には楽しくて仕方ないらしく、読むたびに笑ったり驚いたりしている。

 現役時代、指導を受けた瀬古利彦さんがこんな話をされたことがある。「幼い子どものように、常に新鮮な気持ちで練習に取り組みなさい。子どもは常に成長している。だから、同じ絵本でも、もう次には新しい自分になって聞いているから新鮮で楽しいんだ。そんな気持ちで練習に取り組めるようになれば、何か新しい発見があるはずだよ」

 繰り返し行うのではなく、毎回、新鮮な自分になって取り組む―息子に絵本を読んでやるようになって、ようやく理解できるようになった師からの教えだ。






(上毛新聞 2008年3月23日掲載)