視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
東京芸術大美術学部彫刻科教授 深井  隆(東京都板橋区)

【略歴】 高崎市出身。東京芸術大美術学部卒、同大大学院修了。1989年、平櫛田中賞受賞。2005年から現職。翼が付いたいすをはじめ、木彫を得意とする。

彫刻

◎社寺装飾も郷土の誇り

 今回は私の専門である彫刻に関して書きたいと思います。現在、東京・上野の国立博物館で「国宝薬師寺展」が開催されています。薬師寺といえば、訪れたことがある方も多いのではと思います。本尊である薬師三尊像のうち、両脇侍にあたる日光・月光菩薩(ぼさつ)立像が展示されています。加えて聖観音菩薩立像も今回来ています。日本は言うに及ばず世界でも最高のレベルのブロンズ製の彫刻を一度に見ることができます。

 中でも聖観音菩薩立像は何度見ても素晴らしいと思っています。お寺ではこれらの像には光背があったりして裏へ回ることができないので、背面を見られません。今回はそれを見ることができるという意味でも大変楽しい展示です。

 近年の国立博物館での展示はよく工夫され、毎回感心させられます。ただし、照明でブロンズが光り過ぎ、ちょっと見にくく感じたのは少し残念でした。また「仏像の道」というテーマでインド、中国、日本へと伝播(でんぱ)の歴史をコンパクトに見ることができる常設展示も良い小企画です。時間が取れたら足を運んでください。

 日々の生活の中で彫刻を見たり、触れたりする機会は多くないかもしれません。街に出ると、JR高崎駅や新前橋駅の前には大きなモニュメント彫刻があり、県立近代美術館の前庭にはブールデルの「巨(おお)きな馬」という彫刻があります。室内に彫刻を置くということを考えますと、やはり日本の家屋ではなかなか場所がなく、美術館ぐらいなのかなと彫刻家としては少し残念なところです。

 ところで、ちょっと視点を変えて、群馬に住んでいて彫刻を見るもう一つの楽しみがあります。それは大工彫刻といわれているものです。日光にある東照宮を思い起こしてください。県内にも大切にすべき社寺がたくさんあります。日本彫刻史を紐解(ひもと)いてみると運慶、快慶らを輩出した鎌倉時代を過ぎると明治時代になるまで、江戸時代の円空、木喰(もくじき)らの修行僧の名前が出てくるだけです。しかし、江戸時代の社寺の彫刻はもっともっと評価されるべきものだと思うのです。

 ヨーロッパの教会建築では装飾として聖人などの彫刻がゴシック時代にたくさん彫られました。一方、日本では木造の社寺に装飾彫刻として龍(りゅう)や獅子などが数多くつくられました。妙義神社、榛名神社、雷電神社をはじめ、たくさんあるはずです。少しずつ、楽しみに見て回ろうと思います。

 ただ、問題がないわけではありません。これらの彫刻はほとんどが屋外にあり、定期的なメンテナンスが必要です。台風や盗難などの問題が山積みです。これらの彫刻のある社寺を多くの人に鑑賞してもらうとともに、郷土文化の誇りとして大切に保存していただきたいと願っています。






(上毛新聞 2008年4月1日掲載)