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群馬大社会情報学部准教授 伊藤 賢一(前橋市下小出町)

【略歴】 山形県出身。東京大卒、同大大学院修了。博士(社会学)。2001年から群馬大社会情報学部講師、03年から同助教授。専門は社会情報学、理論社会学、社会学史。

アンケート結果

◎信頼性の鍵は調査方法

 民間のシンクタンクやマスコミの方と一緒に仕事をしていると、回収したアンケート票の数はどの程度あれば十分なのか、と質問されることがある。例えば、全国から二千票回収したとして、これで、政党支持率やある意見の分布を正確に捉(とら)えられるのだろうか。わずか二千人の意見を調べて、全体の傾向が本当にわかるのか疑問に思うのももっともである。調べる人数が多くなれば、それだけ正確な傾向がつかめようというものだ。

 この直感は一面では正しいが、別の面では誤りである。確かに対象者全員を調査することが本当に可能なら正確な数値が出るだろうが、そのコストは膨大なものになるし、何百万人、何千万人分のデータを集計するとなるとそれだけ単純な集計ミスの危険も大きくなる。多くのアンケート調査が、対象者の中から一部を選び出す標本調査であるのは理由があってのことだ。

 では、どのくらいの標本を選べば有効な調査ができるのだろうか。実はわれわれが注意するのは、回収する票の数よりもむしろ集め方の方である。回収した票の数は確かに重要であるが、どうやって集めたのか、ということの方がはるかに重要である。

 例えば、人がたくさん集まっている場所に行って手当たり次第に聞いてみるとか、特定の職場や学校などの団体に協力してもらえば、確かに多くの票を集めることは容易にできる。しかし、このやり方では得られた標本に偏りが生じる恐れが大きい。

 首相の支持率を調べようとする場合に、新宿駅の前を歩いている百人に聞くのと、前橋駅の前を歩いている百人に聞くのとではおそらく結果は大きく異なるであろう。本当に調べたいことが、県民全体やわが国の有権者全体の意見の分布であるなら、その対象となる人々を正しく反映した標本が選ばれるように工夫しなければならない。

 こういう場合、無作為抽出というくじ引きのような方法をとるのがよいとされている。住民基本台帳のようなすべての対象者を並べたリストから、どの人も同じ確率で選ばれるようにするものだ。偏りのない選び方で選んだ標本調査であれば、たとえ数がそれほど多くなくても十分有効な調査になる。

 新聞や雑誌、ネット上のサイトなどで何かのランキングやアンケート結果が紹介されていることがよくあるが、どうやって調べた結果なのか、ぜひ注意していただきたい。そもそも調査方法が書いてないような記事であれば、その結果の信頼性は乏しい。きちんとした手順を踏んだ調査であれば、どのような方法で標本を集めたのか、必ずどこかに明記してあるはずである。






(上毛新聞 2008年4月2日掲載)