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県立女子大准教授 権田 和士(東京都豊島区)

【略歴】 旧尾島町(現太田市)生まれ。金沢大文学部卒。東京大大学院修了。太田東高、恵泉女学園大などを経て、県立女子大文学部准教授。日本近代文学。

平凡な風景

◎感覚開けば美に気づく

 キャンパスの庭でふとした立ち話から、学生たちと県立女子大周辺の風景の美しさを語りあい、楽しいひと時を過ごした。

 私が通勤途上に見ることのできる、埼玉北部から群馬の農村地帯の春はほんとうに美しい。川の土手に菜の花が咲き、桜が咲くと、後はさまざまな草木が次々と花を咲かせていく。広々とした農家の庭にはそれぞれの家ごとの歴史を刻んできたであろう樹木が花や新緑を輝かせている。

 そんなことを話すと、その学生は出身地域が麦の栽培をしていなかったから玉村で初めて金色に輝く麦畑を見たとき、ジブリ映画の「風の谷のナウシカ」の中の美しい場面を思い出し、思わず写真に撮ったことを話してくれた。また、家々の庭の花に見とれながら散歩をしていると、庭の手入れをしている方を見かけることがあり、美しい庭はやはり丁寧な手入れによっているのですね、と言い、そのような手入れの成果を見せていただいていることに感謝していた。

 通学や通勤は毎日のことで、時間に追われていると気づかないが、風景は日々異なった姿を現している。ついこの間まで、いかにも冷たそうに黒く流れていた川の水が、いつのまにか柔らかい緑色に光っているのに気づいたとき、ただそれだけで、幸せな気持ちになる。ほんの少し感覚を開けば、毎日渡る川の水の色も、土手の草も、遠くに見える山々も、花や鳥も、昨日とは違った姿を見せて、私たちを迎えてくれていることに気づく。

 県立女子大の中にも教室研究棟に囲まれた美しい四つの中庭がある。四つの庭はそれぞれ春・夏・秋・冬の特長が植栽によって表されており、すべての教室は四季の庭のいずれかに面している。私の研究室も秋の庭に面しており、窓を開けるとさわやかな風が研究室を吹き抜けていく。多くの学生たちがこの四季の庭で、木々を眺めながら友人と語らい、昼休みや空き時間を気持ちよさそうに過ごしている。

 キャンパス内外のこうした風景は平凡に見えるかもしれない。しかし、これをつくり、維持してきた自然や人間の営みは、地球規模の気候変動や、人々の生活習慣の変化、あるいは庭の管理にかかる手間やコストの問題など、さまざまな事情からゆらいできているようにもみえる。

 県立女子大周辺では今日も麦の穂が風に揺れ、雲雀(ひばり)の囀(さえずり)が空に響いている。いつまでもこのすばらしい環境のなかで学生たちが大学生活を送ることができるよう願っている。






(上毛新聞 2008年4月30日掲載)