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呑龍クリニック院長 福島 和昭(東京都新宿区)

【略歴】 前橋高、慶応大医学部卒。麻酔学を学ぶため、米国に留学。群馬大医学部助教授、防衛医大教授を経て、慶応大医学部教授。2004年4月から太田市の呑龍クリニック院長。

アンチエージング

◎科学的な解明に期待

 不老不死は古来から人類の永遠の夢であるかもしれぬが、現実はそれに応えることはできない。せめて生命の質を伴った不老長寿を目標としたい。これを科学する医学がアンチエージング医学であり、「元気に長寿を享受することを目指す、理論的、実践的科学」と定義されている。右肩上がりのわが国の平均寿命のカーブも終止符を打たされたが、健康長寿への希求は変わらず、メタボリックシンドローム(メタボ)の言葉と背中合わせに、最近、質のある生命の実現のためにアンチエージング(抗加齢)の概念が新しく誕生した。

 加齢のメカニズムに関して種々の説があるが、カロリー制限仮説と酸化ストレス仮説が認められている理論である。一九三五年、マウスの実験で摂取カロリー制限を70%行うと寿命の延長を認めた。その後、ある遺伝子の変異によって寿命の延長が起こることが分かった。この遺伝子は哺ほ乳にゅう類のインシュリンシグナル(食べ物の情報)を抑制する作用があると考えられている。その変異によって食べ物がたくさんあると加齢が進む。二○○○年、カロリー制限によりサーチュインという酵素が抗酸化酵素を促進して長寿に関与していることも分かった。

 カロリー制限の実験で共通していることは低グルコース血症、低インシュリン血症、インシュリン感受性の高進であり、メタボではカロリー摂取過多、高血糖、高インシュリン血症、インシュリン抵抗性が起こり、両者はまさに背中合わせである。また、加齢は活性酸素による全身の臓器障害、いわゆる“体の錆(さび)”現象と考えられる。生命維持に必要なグルコースは、エネルギー分子生成の過程で老化の因子である活性酸素が放出され、組織の酸化を増進。老化と生命維持はここでも皮肉にミラーイメージの関係である。

 加齢は遺伝子異常(細胞増殖の異常)と代謝異常(細胞エネルギー代謝異常)の二つを因子ととらえることができるので、結局、抗加齢にはカロリー制限と酸化ストレスの防御が関与していることが示唆される。食生活が影響するので、腹七分目に抑えよう。コンビニ、ファストフードの食事は添加物により細胞酸化を促し加齢を助長する。野菜は赤黄緑色の多いもの、魚は背の青いもの、大豆、ゴマ、クルミ、ショウガ、唐辛子、カレーの香辛料、ポリフェノールを含むワイン、カテキンを含む緑茶等は抗酸化作用があるため老化防止に役立つ。

 寝たきりや認知症等の介護にかかわる人々の苦労、医療費の圧迫などが社会問題化している中、誰も質のある長寿を求めるのは当然。今後、アンチエージング医学の進歩発展に期待したい。






(上毛新聞 2008年5月3日掲載)