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県文化財研究会会長 桑原 稔(前橋市天川原町)

【略歴】 工学院大建築学科卒。同大専攻科修了。前橋工高教諭を経て国立豊田高専教授。1993年から現職。中国魯東大兼職教授。日中伝統文化比較研究論の講義のため時々訪中。

鳥居の源流

◎中国の寨門が同じ造り

 南西中国の少数民族の村々では、必ず村の入り口に「寨門(さいもん)」と称する門を構えている。掘っ立て柱間に笠木(かさぎ)を載せ、注連縄(しめなわ)を張っただけの寨門もあれば、石造で瓦屋根を載せた立派な寨門もある。これらの門の多くは、笠木や屋根棟の上に、向かい合った二羽の鳥が載せてある。大きな目的は、入村者に憑(つ)いている悪霊を除くためであり、つがいの鳥は鶏であるという。これこそ日本の神社に見る「鳥居」の源流ではなかろうかと思った。

 また、寨門の根元を見ると、木の枝をうまく活用した男女の「人型」と、供物を入れる竹籠(たけかご)と箸(はし)が置いてあった。この人型には、寨門で除かれ空中を浮遊する悪霊が、他の人に取り憑く前に、人型に取り憑いてほしいという、願いが込められているという。

 寨門に関する習俗や効用等の聞き取り調査結果は次のようである。

 (1)寨門を潜(くぐ)ると、身体に憑いていた悪霊を取り除き、身体を清めてくれる(2)寨門は、生活空間において陰陽の境を示す(3)寨門は、悪霊の村内侵入を防ぐ(4)寨門は、村人の邪気や病気を取り除く(5)寨門は、村内の盗難を防ぐ(6)寨門は、村と村人を不慮の災害から守る(7)寨門には、豊作をもたらす神様が宿っている(8)注連縄は、雌雄の蛇が絡み合って妊娠している姿を表し、豊作につながるめでたい姿である(9)注連縄の中ほどに竹籠を編みかけたような「鬼の目」と称する物を下げる。悪霊の侵入を見張るもので、魔除(まよ)けの意味がある(10)死者の棺は寨門を潜れない(11)鶏は太陽を呼び寄せる鳥であるので、太陽の化身であり、ひいては悪霊を払い、豊作や吉祥をもたらす

 日本の鳥居に関する習俗や効用とも類似点の多いことに驚かされる。そこで、県内で鳥居について聞き取り調査を行うと以下のようであった。

 (1)鳥居を潜ると悪霊が除かれ、心身が清まり、善男善女になる(2)鳥居は、神域と世俗の境を示す。神域を陽とすれば、世俗は陰に当たる(3)鳥居は、悪霊の境内侵入を防ぐ(4)鳥居を潜ってお宮参りを行うと、願いが叶(かな)えられる(5)鳥居を潜って祈願すれば、豊作がもたらされる(6)注連縄に下げる御幣は魔除けの効力がある(7)死者の棺は鳥居を潜れないし、鳥居の前を通ってもいけない。また、死者の出た家族は、喪明け前に鳥居を潜ってはならない(8)鳥居は、赤く塗るものと決まっている。理由は不明である

 ところで、鳥居を赤く塗る理由については、中国・雲南省のワ族調査で明らかにすることができた。それは、鶏の血を塗るのである。前述したように、鶏は吉祥をもたらす神の使者である。こうしたところから鶏の血を神聖視し、雲南省では魔除けのために棺まで赤く塗るのである。






(上毛新聞 2008年5月6日掲載)