視点 オピニオン21
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音楽家 松本 玲子(前橋市若宮町3丁目)

【略歴】 大阪府出身。同志社大文学部卒。電子オルガン奏者として国内外で活躍。創造学園大で准教授を務める。2005年度から07年度まで県文化行政懇談会委員。

ハンディキャップ

◎音楽にパワー与えた 

 ご縁があって毎年、茨城県でおこなわれる「ゆうあいスポーツ大会」を音楽でお手伝いさせていただいている。これは茨城県と障害者スポーツ・文化協会が主催し、心身障害者のみなさんとボランティアが一堂に会する貴重な機会だ。特に私が演奏するレクリエーション競技は毎年二千人以上の参加があり、この日のために各施設のスタッフも行政担当者も、そして高校生を含むたくさんのボランティアも一年近くかけて準備する。

 最初、演奏を依頼された時、どんな演奏をすればいいのか見当がつかなかった。広大な野外会場で、年齢もハンディキャップもみなそれぞれ違う人たちに同時に楽しんでもらえる音楽とはどんなものなのだろうか。一緒に参加する歌のお姉さんも同じ思いだったようだ。

 そして本番。まず歌声が会場に響いたが、みんなとまどっている。それを見た時、私は思わずマイクを握って飛び出していった。そしてグラウンドを囲むように設置されているテントの前に行き、大きく頭の上で手拍子をし、テントに入ってマイクでみんなの声をひろった。このハプニングに歌っていたお姉さんもニッコリ、会場は大合唱となった。歌えなければ手拍子で、手拍子ができなくてもボランティアがその人の肩をリズムに合わせてたたき、やがて手をつないで輪をつくるグループも出てきた。歌詞に即席で体操をつけたところ、みんなの体がもっと動いてきた。そしてあちこちで声がした。

 「みんな! テントから出ていっしょに踊ろう!」。いっせいにみんながグラウンドに出てくる。スタッフは想定外の展開に驚いている。私は準備してきた曲を全部キャンセルし、みんなの動きにあわせたリズムを弾きだした。歌のお姉さんは「車椅子(いす)でダンスしようよ!」と呼びかけている。

 さあ、主役の出番だ。得意げに車椅子を回転させる人、体中でリズムを表現しようとする人、しっかりサポートしないと置いていかれそうな熱気にボランティアの人たちも真剣だ。私も立ち上がって演奏する。グラウンドはダンス・フィールドになった。障害があるので聴くだけだったはずの音楽が、ハンディがあるからこそできる表現に変わった瞬間だった。

 今年も今月二十五日に笠松運動公園へ伺う。過去にはNHKテレビ「おかあさんといっしょ」でご一緒した沼田市出身の馮知英さんも歌ってくれたことがある。今年は教育テレビの「ワンツー・どん」で歌のお姉さんをやっていた大和田りつ子さんだ。音楽は確かに素晴らしい。でもそれにパワーを与えてくれるのは何なのか、私は毎年ここで大切なことを教えてもらっている。






(上毛新聞 2008年5月19日掲載)