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eラーニングプロデューサー 古谷 千里(吉井町)

【略歴】 北海道函館市出身。IT利用の英語教育が専門。国立大教授、米国コンテンツ制作会社ディレクターを経て、現在、英語学習ソフト開発に携わる。早稲田大非常勤講師。

モバイル英語教育

◎一人一人に合う内容で

 携帯電話で英語を学習するというプロジェクトをいくつか行った。必ずしも成功したとはいえないが、貴重な発見があった。

 いつでもどこでもできるモバイル学習への期待は大きい。しかし、どこで、どんなときに学習したかという調査では、意外にも「家で」、特に「家のベッドに寝そべって」という回答が多かった。学習内容にもよるが、昔のように机に向かって気合をいれて勉強するのではなく、リラックスして、気軽に学習している様子がうかがえる。

 配信する問題数を自由に選ばせたところ、毎日三問ずつ送ってほしいと希望する人もいれば、週末に一週間分まとめてほしいという人もいた。また、何問でも自由に選択できるようにしてほしいという人もいた。配信希望時刻も、朝だったり夜だったりと実にバラバラで、人によって学習時間帯も学習量も異なることが明らかになった。ただし、コンピューターネットワークを利用すれば、これくらいのサービスは簡単なことだ。

 最も気になったのは教材レベルの問題だった。英語の得意な学習者が問題を次々にこなして、さっさとプロジェクトから抜けていった一方で、遅々として進まない学習者もいた。原因は彼らの努力不足ではなく、出題内容やレベルが彼らに合わなかったためだろう。誰もがすいすい解けるような問題をもっと配信し、全員に達成感を味わわせてあげたかった。

 学習教材はたいてい易から難へと配列されている。ふつう、七割できたら次のステップへ進んでよい、とみなされる。今回は自由裁量に任せたところ、多くの人が五割強できた時点で次に進んでいた。昔からなんとなく信じられてきた七割という数字に、何か根拠があるのだろうか。先へ進みたい学習者の気持ちを抑えて七割までがんばらせることが本当に必要かどうか、この検証も必要だ。

 これまでの教材はコンテンツを選べないものばかりだった。本当の英語教育とは、自分の考えや気持ちを的確に伝えられるようにすることだ。もし、学習者一人一人の思いを英語で伝えられるような教育を行うのなら、多種多様な内容とレベルのコンテンツを用意する必要がある。万人向けのコンテンツ一つでは、とてもカバーしきれないと痛感した。

 ビル・ゲイツは今月の経団連での講演で、日本の教育機関はオンライン化が遅れていると指摘した。また、これからの五―十年間に起こる変革の一つは教育であり、紙の教科書は消えるだろうと予想した。コンピューターの力を借りて、今から十年以内に、学習者一人一人が地球上で自由に発言できるような英語教育に変革したいものである。






(上毛新聞 2008年5月20日掲載)