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県読書グループ連絡協議会会長 長 京子(桐生市新宿)

【略歴】 前橋女子高、群馬大学学芸学部を卒業。結婚を機に1964年に桐生に移り住む。桐生市読書会連絡協議会を皮切りに婦人会などで活動している。

食料

◎安全な供給施策を願う

 「原料不足のため、入荷の見込みはありません」。桐生市内のスーパーで見た張り紙に驚かされた。入荷見込みのない商品とはバター。別のスーパーは少量を並べているが、脇には「お一人様一点限りでお願いします」と書かれていた。

 一緒に婦人会活動をしていて、公民館でケーキづくりを指導することもある仲間は「ゴールデンウイーク前に、もうバターは手に入らなかった。買い置きがあるのでしばらくは頑張れるけれど…」と、私よりも早く事態を察知していた。

 お客に不安感を与えないためだろうが、お店もマーガリンなどをうまく展示していたようだ。バターが品薄という報道に接していたけれど、身近でこれほど深刻なことが起こっていようとは、うっかりしていた。

 バターが不足しているからといって、酪農家もすぐには増産できない。数年前は「減らせ」と言っていたのがうそのようだ。

 中近東の国だったと思うが、テレビで先日、十数人の男女が紙幣を高く掲げてパンを争って買う映像を見た。雑炊を買うのに配給切符を握って並んでいた戦後の光景が頭をよぎった。

 中南米では主食のトウモロコシが不足している。石油の代替エネルギーの原料としてトウモロコシが使われたのが原因と軽く考えていたが、主食の不足はもっと切実な問題だった。

 夫婦と息子の三人で生活するわが家では、一日たりとも納豆は欠かせない。だが、国産ダイズの自給率はわずか5%。日本食と思っている豆腐やみそ、しょうゆも実はほとんどが外国産から生まれている。スーパーでは、より取り見取りの肉が買える。でも、飼料の大部分は輸入に頼り、肉の自給率も5%程度という。

 桐生はうどんのお店が多い。小麦の値上がりはお店に重くのしかかっている。パンにしても、いまさら日本の食卓から外せるはずもない。米の消費を増やせと言われても、生活習慣は簡単に変えられないだろう。

 食料自給率が話題に上り、日本の食料自給率は39%で、60%を外国から購入しているという数字を示されても、現実の生活からはぴんとこない。いったん異変が起こった時、私たちの主食はどうなるのか。ついこの間まで「飽食の国」といわれていたのに。平和な二十一世紀に食料不安が起こるなど想像していないだろうが、案外、この国の食料品の確保は脆弱(ぜいじゃく)かもしれない。

 主要先進国の自給率はフランス132%、カナダ122%、アメリカ118%、ドイツ93%という。日本はいかにも心細い。経済効率ばかり追わず、身近にある休耕田などを活用して、逆風になった時に耐えられる、安全な食料供給施策を主婦の立場から願っている。






(上毛新聞 2008年5月28日掲載)