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呑龍クリニック院長 福島 和昭(東京都新宿区)

【略歴】 前橋高、慶応大医学部卒。麻酔学を学ぶため、米国に留学。群馬大医学部助教授、防衛医大教授を経て、慶応大医学部教授。2004年4月から太田市の呑龍クリニック院長。

医師と患者

◎対話し良い関係築こう

 私の子供のころの記憶では、開業医と地域住民は密接な関係だった。医師は患者の家庭状況をよく把握し、患者も医師を信頼し、親子代々かかっている例が多く見られた。今の都会ではアパートやマンションだらけで、また住所も頻繁に変わり、かつてのような医師と患者の良き信頼関係は見られなくなった。

 大病院からの医師離れも多く、患者は数時間待たされたのちに三分間診療という好ましくない状況が生まれている。医療構造も変化し、従来は医師、看護師と薬剤師で行われてきたが、今はソーシャルワーカーなども含むチーム医療が行われるようになった。そんな中でも、医師と患者は医療の原点であり、両者間にもし不信が存在すれば両者にとって不幸となる。このような事態を防ぐために両者はどのような行動をとるべきか検証してみる。

 患者に理解していただきたいことは、医師は人間であること、そして医療に対して確固たる信念を持っていること。

 一方、医師の側は、患者の立場を考え、患者と医師の間に種々の相違があるのを認識すべきである。例えば健康人と病人、治療施行者とその受給者、医療の専門家と素人の関係等である。こうした関係が師弟、強者と弱者の関係に陥らないよう配慮しなければならない。患者は十人十色で、例えば衝動的な人、特別の扱いを求める人、苦情の多い人などいろいろだが、逆に医師に協力的で理解ある患者もいる。医師という職業を選択した以上、患者のいかなる態度にも対応できる力量と能力が要求される。

 英国医師会の雑誌で医師と患者が共有すべき認識事項を取り上げていた。医学には限界があり、しかも危険を伴い、そして医師はすべての知識を持っているわけではない。医師と患者は共同作業を行う仲間であるが、患者は自分の持つ問題を医師に押し付けることはできない。医師は自らの限界をすべて公表すべきである。患者の苦しみを理解し、それを軽減・除去するよう努力すべきだが、すべての苦しみを解決できないことも患者は理解すべきと述べている。

 医療に対する患者の不満の原因としてコミュニケーション不足を指摘したい。コミュニケーションと患者の満足度は正の相関関係があるといわれる。医師と患者のコミュニケーションが良いと患者の満足度は高く、患者は診療に協力的である。コミュニケーションは言葉から始まるといっても過言ではない。患者の言葉に耳を傾け、対話する必要がある。

 医師と患者の関係の円滑化のために、その背景にある医療行政の適正化、医師の確保、病床と医療設備の完備、救急体制の充実等、良き医療環境が望まれる。






(上毛新聞 2008年6月4日掲載)