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群馬工業高等専門学校特任教授 小島 昭(桐生市本町)

【略歴】 群馬大工学部卒。社会問題となっているアスベストの無害化技術研究に携わっているほか、炭素繊維を使った水質浄化と藻場形成にも取り組んでいる。

酸性河川

◎アンモニアで中和を

 「草津よいとこ薬の温泉(いでゆ)」。

 上毛かるたに読まれる草津温泉は、日本一の湧出量をもつ名湯で、たくさんの観光客が訪れている。驚くべきは、pH2・1の酸性水で、硫酸イオンや塩化物イオンが大量に含まれている。草津から流れた水は、湯川、吾妻川に入る。吾妻川は、魚の棲(すめ)ない、鉄もコンクリートも溶ける川であったが、一九六四(昭和三十九)年に石灰を投入し酸性水を中和する施設が建設された。その結果、生き物の豊かな河川になり、流域の産業が発達した。中和は、地球が存続する限り継続しなければならない。もし、中和作業が停止すれば、莫大(ばくだい)な被害が下流域に発生するので、何重にも安全対策が取られている。

 問題は、中和によって水に溶けない硫酸カルシウムが生成されることである。これを沈殿させるダムが建設されたが、収容できなくなると下流に流れだす。それを防ぐには、ダム底の沈殿をくみ出すか、別のダムを造るかである。中和が始まって五十年が経過した。沈殿物が飽和状態になったことから、さまざまな対策が取られている。

 そこで、中和剤として石灰の代わりにアンモニアを使用しては、と考えた。さっそく、草津温泉の湯を汲(く)みに出かけ、アンモニア水を加え中和した。少し白濁。大量の沈殿はできない。水を蒸発させると、白い粉が現れた。分析すると塩化アンモニウムと硫酸アンモニウムであった。ともに肥料である。

 アンモニアと石灰では、価格が十倍も異なり、使用できないと思われる。しかし、沈殿物が生じないので、ダムも浚渫(しゅんせつ)も不要となる。五十年ごとにダムを建設することは、これからの日本ではできない。ダム建設に伴う、莫大な経費の発生、住民の立ち退き、自然景観や環境の変化、生態系への影響などがある。中和にアンモニアを用いることは、現在の経済感覚で考えると実現不可能で、一笑すべき荒唐無稽(むけい)な話かもしれないが、石灰とアンモニアを併用することで沈殿物は減り、現在のダムの延命策にもなる。地球が存続する限り実現可能な方法を模索し、検討することも必要なことと思う。

 アンモニアは化学技術の進歩により、空気と水を原料として効率的で比較的安価に作る方法が開発されている。自然界にあるアンモニア資源を活用する方法もある。現在の科学技術をもってすれば不可能ではない。百年後の元気な群馬、千年後の輝く群馬を創(つく)るために基礎的な研究を実施してもよいのではないだろうか。科学技術は、県民の生活を大きく変化させる原動力となる。






(上毛新聞 2008年6月5日掲載)