視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
管理栄養士 松尾 綾(前橋市石関町)

【略歴】 共立女子大家政学部食物栄養学科卒。2004年、草津温泉フットボールクラブに入社。管理栄養士として、ザスパ草津選手の栄養管理を担当している。

スポーツ選手と貧血

◎血清鉄の減少確認を

 強靭(きょうじん)な肉体を持つイメージのあるスポーツ選手と、か弱いイメージの貧血というのは一見無関係なように見えますが、実はスポーツ選手は鉄分を失う場面が多く、とても貧血になりやすいのです。

 血液中には酸素運搬機能を持つヘモグロビン(血色素)という赤い色素が赤血球中に含まれています。貧血とは、そのヘモグロビンが何らかの原因で減少した状態を言います。

 ヘモグロビンの減少は酸素運搬機能の低下を示し、スポーツのパフォーマンスに直接影響する部分であります。貧血にはさまざまな種類がありますが、スポーツ選手に多く見られるのは、鉄分を必要とする量が運動をしない人よりも多いために鉄分の摂取量が満たせない鉄欠乏性貧血と、ランニングなどで足裏を強く地面に踏みつけることによって赤血球が破壊されてしまう溶血性貧血です。

 貧血は血液検査のヘモグロビン量で診断しますが、それ以外にも診断に役立つ項目があります。それは血清鉄と貯蔵鉄です。

 体内にはヘモグロビンの材料となる鉄分が血清鉄として血液中に、貯蔵鉄として臓器に貯蔵されています。ヘモグロビンは食事から摂取される鉄分のほかに、これらの貯蔵されている鉄分を材料にして作られるのです。

 食事から摂取される鉄分が不足したり、赤血球が多く破壊されてヘモグロビンを作る材料の鉄分が血清鉄から賄いきれなくなると、貯蔵鉄を放出して血清鉄の濃度を保ち、ヘモグロビンを作るようになります。

 貯蔵鉄を使い果たすと、血清鉄の濃度も保たれなくなり、血清鉄がなくなると、最後にはヘモグロビンが作られなくなり貧血状態になってしまいます。

 スポーツ選手においては貯蔵鉄減少の時点で競技力に影響が出るといわれています。血液検査でヘモグロビンの量が十分でも油断は禁物です。一般的な健康診断では血清鉄までしか測定しないことがほとんどですが、できれば貯蔵鉄まで測定するのが理想的です。それが難しい場合、血清鉄も減少していないかだけでも確認するようにしましょう。

 残念ながら、ヘモグロビンまで減少してしまった貧血の場合、貯蔵鉄、血清鉄まで回復させるには莫大(ばくだい)な量の鉄分が必要で、とても食事から賄えません。病院に行って鉄剤を処方してもらうようにしましょう。

 貧血の予防には、鉄分を多く含む食べ物(レバー、青菜、牛赤身肉、貝類、大豆製品)の摂取のほか、鉄分の吸収を良くするビタミンCや赤血球の材料となるタンパク質の摂取が重要です。ヘモグロビンが減少してしまう前にこれらの点に注意した食生活を心がけましょう。






(上毛新聞 2008年6月11日掲載)