視点 オピニオン21
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元障害福祉サービス事業所ぐんぐん所長 山口 久美(高崎市石原町)

【略歴】 日本福祉大卒。約20年、知的障害者の福祉に携わる。2007年3月、高崎市内に自閉症の人たちの自立を支援するためのパン工房とカフェを開設した。

物事のとらえ方

◎視野を広げてみよう

 じーちゃんと娘の会話。

 じ‥「三匹のこぶたがいました。一匹のこぶたが迷子になってしまいました。こぶたは何匹になったでしょう?」

 娘‥しばし考えて「さんびき〜!」

 じ‥「ん〜?」。右手で二、左手で一をつくり、「三匹いるだろう? 一匹迷子になると?」と左手を離して右手の二を強調。

 娘‥「さんびきでしょう」

 じーちゃんはここで、娘には引き算はまだ難しいと判断。そこで、

 母‥「じゃあさ、お家(うち)に三匹のこぶたがいます。一匹のこぶたが出ていったら、お家には何匹のこぶたがいるでしょう?」

 娘‥…「にひき〜!」

 なんでだ? という顔のじーちゃんに解説。三匹のこぶたは、一匹迷子でも、三匹。三匹のこぶたが「家に」いて、一匹出ていったら、「家の中には」二匹。この違い、わかります…よね?!

 私たちは「普通」「常識的に考えて」、じーちゃんの出した問題が「引き算の問題だな」と考えられます。

 ところが、私が支援している、自閉症という障害がある人の中には、その「普通」「常識的に」が苦手な人がいます。彼らは、物事をいつもきっちりと正確にとらえ、考えようと一生懸命です。時に、その基準で、人の物言いまで指摘したり訂正したりしてしまうことも…。「三匹のこぶたは、どこへ行こうが三匹いるでしょう!」「ちゃんと、家に幾人いるかと聞いてくれればわかるのに…」

 「おじいさん、それは、言い方が正しくありません」なんて感じです。四歳の娘が言うなら、おませさんのかわいい戯(ざ)れ言(ごと)でも、就職して、職場の同僚や上司にそんなことを言ってしまったら…。「あなたの言っていることはおかしいです」「ちゃんと言わないからできないんですよ」

 口うるさい、非常識なヤツと言われて疎まれてしまうのがオチです。でも実は、そのことで、とても深く悩んでいる人たちがたくさんいます。どうすれば「普通に」「常識的に」うまくいくのか、わからないのです。

 そんな彼らは、私たちとは違う物事のとらえ方をする脳を持っています。できるだけ具体的に正確に物事をとらえるように働く脳です。その脳の働き方を、ヘン、おかしい、ダメと思いますか?

 自分とは違う物事のとらえ方、考え方をする人…。ちょっと視野を広げて、地球規模で考えてみてください。「違う」人たちがたくさんいますよね。

 私たちは、自閉症の脳を持つことを「障害」とネガティブにとらえずに、「自閉症の文化」の中で生きることとポジティブに考えていきたいと思っています。

 異文化コミュニケーション。最初は通訳付きが当たり前。私たちと一緒に、彼らの世界へ行ってみませんか。






(上毛新聞 2008年6月12日掲載)