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弁護士 丸山 和貴(前橋市大手町3丁目)

【略歴】 東京大法学部卒。1981年弁護士開業。91年度群馬弁護士会副会長、2006年度同会長。前橋市の教育委員、都市計画審議会委員などを務める。

法教育

◎足りない基本的知識

 法に関する教育は、従来から行われてきたが、あらためて「法教育」という言葉がクローズアップされてきたのは、比較的最近のことである。二〇〇一年六月の司法制度改革審議会の意見書には、裁判員制度導入等の提言に加え、その国民的基盤の確立のため、学校教育等における司法に関する学習機会の充実が要請されている。

 これを受けて、〇四年十一月には、法務省に設置された法教育研究会が「我が国における法教育の普及・発展を目指して」とする詳細な報告書を作成している。

 法とか、法律とかは、一般市民にすれば、あまり興味が湧(わ)くテーマではないし、学校現場における教育の話となると、専門的な観点もある。それをここで論じるのではなく、法教育について、法律に携わってきた者としての感想をいくつか指摘しておきたい。

 一つは、裁判員裁判はもちろんだが、そもそも契約とか、犯罪と刑罰とか、法曹の役割とか日常生活に必要なごく基本的な知識について、圧倒的に教えが足りないと感じる。

 学校教育となると、法律の条文や制度を覚える知識型の教育ではなく、法の背景にある価値観とか、法の意義を考える思考型の教育が重要とされる。

 それは大切だが、個人的には、もっと単純な社会のルールを学ぶことが必要ではと感じている。あまり、抹香臭くなると、とかく子供は嫌がるのではないか。もちろん、具体的なルールの教えを通じて、その背景にある思想を身に付けられれば理想的ではある。

 もう一つは、法教育研究会の報告書でも指摘されているが、裁判官、検察官、弁護士等の実務家が教育のお手伝いをするのが有益である。

 これは、現在でもある程度実践されており、例えば、群馬弁護士会でも、主として若手の会員が小学校や高校に出前授業に行ったり、中学生や高校生向けの刑事模擬裁判を実施している。

 出前授業については、教育現場で行われるため、カリキュラムその他の問題もあるが、テーマも工夫され、児童・生徒の関心も高いと聞いている。

 最後に、教育の対象は未成年者に限らないし教育の現場も学校に限られない。ある程度の規模の企業になれば、せめて新入社員の研修の一つとして、契約法の基本知識等を伝授することも必要と思える。

 教育ですべてが解決するという簡単な話ではないが、将来を見据えて、実践的な法教育を積極的に行う必要があろう。






(上毛新聞 2008年6月16日掲載)