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渋川総合病院長 横江 隆夫(前橋市上小出町)

【略歴】 東京都出身。群馬大医学部卒。同大医学部附属病院助教授(救急部)などを経て、2002年から国立渋川病院長、03年から現職。専門は外科。

禁煙のすすめ

◎健康は中毒からの脱却

 平成十九年十月号の文藝春秋に、『バカの壁』で有名な養老孟司氏と劇作家の山崎正和氏の「変な国・日本の禁煙原理主義」と題した対談が掲載されました。養老氏は、たばこが肺がんの原因とは証明されていないとか、副流煙の危険性はないなどと述べています。

 これに対して日本禁煙学会が怒って二氏に公開質問状を出しました。たばこの害は世界的に立証されて禁煙運動が展開されており、禁煙が進んだ国では喫煙に起因する病気が減っているからです。養老氏ほどの医学者がなぜたばこを毎日吸い続けるのでしょうか。

 以前、野菜や加工食品からダイオキシンや農薬が検出されたとの報道があり、その食品が全く売れなくなったことがありました。当然のことです。たばこに有害物質が含まれていることは誰でも知っているはずなのに、なぜ吸い続けるのでしょうか。それはニコチン中毒になっているからです。

 たばこは嗜好(しこう)品ではなく「死向品」ともいわれるようになってきました。たばこが引き金になる病気はがんだけではありません。狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳血管疾患、閉塞(へいそく)性動脈硬化症、喘息(ぜんそく)、肺気腫、酸素療法が必要なCOPD(閉塞性肺疾患)、歯周病、早産など多くの疾患と関連があります。

 自分はたばこを何年も吸っているが健康だという人がいますが、病気になる危険度は吸わない人の二倍から三十倍になります。たばこの副流煙は自分以外の人にも害をもたらします。

 欧米先進国と比べ日本のたばこの値段は安すぎます。欧州では六百円から九百円するところがあります。最近、一箱千円にする検討が始まっていますが、これには賛成です。税収が増えるとの試算がなされていますが、それよりも禁煙者の増加や未成年者の喫煙がなくなることが期待されるからです。

 ニコチンパッチやガムを用いた禁煙治療が行われるようになってきました。施設によっては健康保険が使えます。当院の禁煙外来を受診した人の禁煙成功率は約60%です。

 つい最近、たばこを吸いながら禁煙を進める新しい内服薬(バレニクリン)ができました。脳のニコチン受容体に結合するため、たばこを吸ってもおいしく感じなくなるようです。禁煙成功率は70%以上の高率です。

 http‥//www.e‐kinen.jp/search/index.htmlで近くの禁煙クリニックが調べられます。多くの人が喫煙によるニコチン中毒から脱却し健康になれるよう祈ります。






(上毛新聞 2008年6月18日掲載)