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奥利根ワイン社長 井瀬 賢(沼田市横塚町)

【略歴】 前橋市出身。前橋工高卒。建設会社勤務、酒販店経営を経て、1991年に奥利根ワイン創立。2002年に昭和村へ移転。元利根沼田小売酒販組合専務理事。

ものづくり

◎現場に知識や理論を

 ワイナリーはこの時季、雨が上がった朝などは、向かいの迦葉、三峰山の新緑、その奥に残雪の三国、谷川連峰が放つ鮮やかな輝きを望むことができます。ブドウ畑では開花が終わり、昭和村のコンニャクも植え付けが行われています。野菜農家からは朝どりレタスやホウレンソウが出荷され、村全体が活気づいています。

 新鮮野菜は毎日、都内に向けて出荷されています。フランスのパリでも、米国のサンフランシスコでも近郊には野菜供給畑が存在し、都会の食卓を潤しています。森林面積の多い、利根沼田地域はおいしい水と空気をも首都圏に送り込んでいる生命線だと思います。

 畑は農産物を生産するだけではありません。農業を通して地域の水質浄化や汚水防止の機能も果たしています。逆に言えば、農業の衰退は地域環境に計り知れないほど大きな影響を与えます。

 スローフード発祥地のイタリアでは、値段が少し高くても地元の食材を購入しよう、農家は一生懸命自分たちの食料を作ってくれる誠実な人たちだから一緒に支えようという共通の考えがあり、スローライフの中のスローフードと位置付けているようです。

 先日、コンニャク生産者の方が「俺(おれ)、五十歳過ぎた今、農業が面白くなってきた。楽しいよ」と話していました。

 グループを結成し、農繁期、農閑期を問わず、学識経験者や農業コンサルタントを招いて研修会を開催、勉強しているようです。有機肥料の土作りや最適農薬、最適施肥など研修の成果が病気対策に、品質に、反収にと表れ、少しずつ年収増加に結びついてきているようです。

 山梨大学では国の支援を受けて、県内ワインメーカーの醸造家を対象に、十二月―三月の夜間に醸造の理論講座を開講、醸造家のレベルアップを図る事業を行っています。農業にしても、ワインにしても、ものづくりの現場で知識や理論を常に生かすことができれば、「鬼に金棒」です。製品のレベルアップが一段と図られ、品質は向上するし、現場は願ったりかなったりです。

 農業でも、零細企業でも、これからのものづくりの現場には、情報や理論やデータが欠かせません。それらの後押しがなければ、現場は回っていかないと思います。群馬県内でも産学官連携の推進を図り、知識と産業の融合、地域の活性化を目指す事業が行われているようですが、農業分野にも目を向けてくれることを期待しています。






(上毛新聞 2008年6月20日掲載)