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文筆家 岡田 幸夫(桐生市広沢町)

【略歴】 東北大工学部を経て東京三洋電機に入社。2005年に退社、身近な体験を通して、健康、環境、社会、歴史などを考える「晴耕執筆」生活を実践している。

ハイブリッド技術

◎発想の転換による開発

 環境問題や二酸化炭素(CO2)削減への関心の高まりから、日本メーカーのハイブリッド車が世界的に高い評価を受けている。この車は電気自動車の良いところを取り入れながら、燃費を飛躍的に改善したガソリン車である。その人気のお蔭(かげ)で、ハイブリッド種、ハイブリッド耐震構造、ガラパゴス島のハイブリッド・イグアナまで、ハイブリッドという言葉や概念が市民権を得つつある。

 辞書を引くと、ハイブリッド=(1)雑種(2)異なったものを混ぜ合わせること、と説明されている。長らく半導体業界で、ハイブリッドIC(集積回路)という製品に携わってきた者としては、さらに加えて(3)雑種強勢、すなわち異なったものを組み合わせてより優れたものや機能を生み出すという意味があるのではないかと思う。

 半導体におけるICは普通シリコンという基材に回路が形成される。ところがシリコンは熱の伝導特性が良くない。大きな電力を扱う回路では、シリコンの代わりに絶縁処理された金属基板を使えば、ICの熱放散性を十倍くらい向上させることができる。

 今から四十年ほど前に三洋電機で発明されたハイブリッドIC(厚膜ICとも呼ばれる)は、日本の特許制度施行百周年記念の年に、過去四十万件の特許の中から産業振興に貢献した重要特許五十三件の一つに選ばれ表彰された。

 半導体では唯一であり、高い独創性と量産性が評価された。コロンブスの卵の見本のようなもので、ハイブリッドという名が付けられた商品のはしりではなかったかと思う。

 生物界では、たとえば市販されている野菜の種はほとんどがF1と呼ばれるハイブリッド種である。野菜だけでなく、ニワトリなどの家畜にも広がりつつある。遺伝子の組み合わせによってはごく平凡な両親から、優れた野菜や家畜が生まれる、つまり「トンビが鷹(たか)を生む」ことを利用している。

 ただし、その優秀な性質は一代限りである。「優れた種は世界を制す」というわけで、種子メーカーはハイブリッド種の開発にしのぎを削っている。

 大きな問題は、一つの技術の延長だけでは解決できないことがしばしばある。一方で次世代の理想とされる解決策はハードルが極めて高い。

 そのような場合、異種技術の融合、学際的知識の連携によるアプローチなど、発想の転換による現実的な解決策を早く見いだしていくことが大事になる。従来の常識にとらわれない、ハイブリッド技術や商品はもっと広がっていくのではないかと思う。






(上毛新聞 2008年6月24日掲載)