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新潟大人文学部教授 橋本 博文(新潟市西区)

【略歴】 太田市出身。早大大学院博士課程満期退学。早大助手を経て、1999年11月から現職。新潟大旭町学術資料展示館長。博士(文学)。

文化に優先する経済

◎公立博物館が危機だ

 国内地方財政の悪化は、地方公共団体の運営する博物館に対して深刻な影響を与えつつある。滋賀県立琵琶湖文化館は県下最古の博物館として地元で慕われてきた。しかし、県の財政悪化を理由に切り捨てられ、この四月から休館に追い込まれた。

 大阪府では、新知事の誕生によって、大胆な財政再建策から文化行政の大幅な見直しが迫られている。府立の弥生文化博物館など四つの博物館が一時、整理の対象になった。そのうち、弥生文化博物館は隣国の韓国学会をも含む全国からの署名などの後押しによって、当面吸収合併を回避した。しかしながら、既に本年度に予定されていた春の企画展等は軒並み中止を余儀なくされ、展示資料の借用を予定していた全国の博物館との信頼関係も揺らいでいるという。

 新潟県立歴史博物館では、アクセスの悪さが祟たたってか、このところ入館者数が激減した。その結果、以前あったミュージアム・ショップは消え、ミュージアム・レストランも閉じた。県立近代美術館ともども、それまでの識者館長から民間経営者館長への切り替えというトップの交代もあった。果たして、長期的に見てそれはプラスに作用するのであろうか。

 小泉改革の一連の政策から、指定管理者制度という民間活力の導入が博物館・美術館に浸透しつつある。それは行政で運営してきた博物館等を一般競争入札で落とした企業が数年単位で運営するというものである。そこには経営効率が優先され、博物館等のもつ公的サービスが低下しないかという危惧(きぐ)を禁じ得ない。また、運営理念がころころ変わるのではないかという不安も募る。さらに、市町村合併のあおりで閉館した博物館の問題も重要だ。

 桜の花のころに上野にある東京国立博物館を訪問した。もともと「帝室博物館」であったため「敷居が高かった」。しかし、今は違う。「博物館でお花見を」の看板に誘われ、中に入ると撮影スポットのリーフレットが置かれていた。夜はライトアップもあり、午後八時までの開館という粋な計らいである。昔は決まって表慶館に日本の考古遺物を訪ねたものだった。それも今は『みどりのライオン』という愛称で呼ばれる「みんなで楽しむ教育スペース」へと様変わりした。

 先の滋賀県には一方で似た名称の県立琵琶湖博物館というのがある。こちらは、日本の博物館のうちでわたしの推薦する一館である。教育・研究のほか、国際貢献などに積極的に取り組んでいる。国立民族学博物館とタイアップして国際協力機構(JICA)の委託を受け、世界各地の博物館専門家を招いて集団研修も行っている。自己点検・自己評価の怠りもない。今後、日本の博物館は行政によって淘とうた汰されていくのであろうか。






(上毛新聞 2008年7月7日掲載)