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伊香保おかめ堂本舗取締役 真渕 智子(渋川市伊香保町伊香保)

【略歴】 群馬大工学部卒。渋川市伊香保地区地域審議会委員。元NTTデータ職員。2001年から、伊香保温泉の石段街にある民芸「山白屋」を母とともに切り盛り。

いい旅

◎「歓迎」の配慮が左右

 昨年、伊香保おかめ堂本舗のメンバー四人で愛媛県の道後温泉を訪れた。松山空港から道後温泉に向かうバスに乗り込みしばらく走ると、車内アナウンスが途切れることなくしゃべり続けていることに気づいた。

 よく耳を傾けると、日本語、英語、韓国語、中国語の四カ国語で、車内の注意事項、バス停の名前のほか、周辺の観光案内まで話している。空港からの路線ということもあるが、第一印象で、旅人として歓迎されているということがわかる。

 伊香保の魅力を伝えることを目的に私たちが情報紙を発行していることは何度かこの場で触れているが、今回そのテーマとして、「YOKOSO! IKAHO」を選んだ。

 海外から直接観光客を誘致するのは大変だが、まずは在日外国人に伊香保の魅力を伝えたいと思いついたことがきっかけだ。そこで、在日外国人に観光モニターになってもらい、一泊二日の伊香保温泉旅行密着同行取材をすることになった。 ただし、伊香保生まれの私たちは一切道案内も口出しもしない。外国人のお客さまが伊香保の何に興味を持ち、行動するのか知りたかったのだ。

 モニター探しを検討する中、偶然の出会いにも恵まれた。シャウウェッカー・シュテファン氏と光代さんご夫妻である。氏は日本を訪れる外国人が、必ずチェックするという、英語による日本紹介サイト(japan−guide.com)の主宰者で、国土交通省の「YOKOSO! JAPAN大使」にも任命されており、なんと藤岡市在住。身近な所で心強い味方を得ることができた。

 氏の全面的協力を得て、モニターはカナダ出身、在日十カ月、高崎在住二十代の男女と決まり、当日、私たちの密着取材は渋川駅からスタートした。ところが、渋川駅を出るなり伊香保行きのバス乗り場が見つからない。駅出口からかなり離れた場所に日本語の立て看板が見えるものの、彼らには認識不可能だ。

 仕方なく改札まで戻り、駅員に質問して乗り場に移動。バスを待ったが、ここにも英語表記はなかった。その後、宿に到着するまでの間に「バリアー」と感じる事象に何度も遭遇した。「伊香保の魅力を伝えたい」と意気揚々と同行した私たちは、まさに意気消沈した。

 車王国群馬では、私たち自身バスを利用することは稀(まれ)だ。旅行者として駅に降り立ち、不都合なく旅情を感じながら移動する目線が欠けていたと気づき、恥じた。外国人も日本人もない。

 旅人にとっていい旅は、崇高で巨大なプロジェクトにも、派手な広告にも、金のかかったハコモノにも依(よ)らない。それは、親切な案内板や人間味あふれる応対、自由度の高い小回りのきく交通網など、私たちの足元から続く道の先にある。






(上毛新聞 2008年7月18日掲載)