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群馬工業高等専門学校特任教授 小島 昭(桐生市本町)

【略歴】 群馬大工学部卒。社会問題となっているアスベストの無害化技術研究に携わっているほか、炭素繊維を使った水質浄化と藻場形成にも取り組んでいる。

アジア3カ国の水事情

◎環境整備必要と痛感

 五月からアジア三カ国、中国、インド、フィリピンの環境水を見る機会があった。中国では、上海から八十キロ西にある、日本では見たことがない湖を調査した。湖面は鮮やかな緑色。アオコが発生していた。

 その湖、太湖は周辺で生活する三千八百万人の水源である。昨年夏、アオコが大量発生し、水道がダウン。大問題となった。中国政府は、このような事態は二度と起こさないと、種々の対策を講じた。

 その一つに長江の導入がある。しかし、長江自体も汚染されており、太湖がそれで浄化されるかは疑問である。連日連夜四〇度以上になる七月、八月にはさらにアオコが発生すると考えると背筋が寒くなった。

 水のよどんだ場所はさらに深刻で、ニオイも強烈。息を止めて、湖面を見ると、緑と白のまだら模様で、容器に水を汲(く)もうとしたが、汲めない。アオコがコンクリートのように硬い。力をこめて塊を割った。アオコの厚さは三センチ。日本では見たことがない光景にびっくりした。これは高温が持続し、アオコ中の水分が蒸発して固形物となったからであった。

 五月中旬、インドを訪問し、デリー首都圏の川を調査した。水は真っ黒。強烈な刺激臭がする。目チカチカ、涙ボロボロ。川面には“黒い花”が流れていた。川底に堆積(たいせき)したヘドロが浮遊したものだった。

 水質を分析するも、すべて測定限界以上。水に溶けている酸素はゼロ。魚も貝も微生物も棲(す)める状態ではない。川の周辺には青テントや段ボールハウスが林立し、裸足(はだし)の子供たちが出入りしていた。トイレも水道もなく、衛生状態は劣悪。人間として生活できる、環境整備が必要と感じた。

 六月上旬、フィリピンを訪問。マニラ市周辺の河川を調査した。市内の河川の水質は、良好とはいえないが、魚は棲息(せいそく)していた。二十キロほど上流では水質も良好となり、たくさんの魚が遊泳していた。亜熱帯に属するフィリピンでは雨も豊富で、上流部の水質は良質であるが、下流では生活排水によって汚染汚濁の高い水となっている。

 上流部の川の両岸は整備され、美しい公園となっていた。南国特有の色鮮やかな花が咲き乱れていた。地元市民のお話では、六十数年前、ここに日本軍司令部があり、日米両軍の激戦が行われてたくさんの生命が失われたとのことであった。今立っているこの土には、日本の兵隊さんの血潮がしみこんでいるかと足がすくんだ。

 アジア三カ国を訪問し、貧困層が大多数を占める国の現状を目の当たりにし、技術者として何かをしなければと、熱い想(おも)いのわきあがるのを感じた。






(上毛新聞 2008年7月22日掲載)