視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
群馬大大学院医学系研究科教授 小山 洋(前橋市若宮町2丁目)

【略歴】 東京都出身。群馬大医学部卒。医学博士。2002年6月から現職。日本公衆衛生学会評議員。環境省地球環境研究企画委員。県のがん対策協議会等の委員。


県がん対策推進計画

◎健康支える社会環境を

 この四月から県がん対策推進計画がスタートした。計画にはさまざまなことが盛り込まれているが、県民一人一人にとってまず第一に大切なことは、がんにならないようにすること、すなわち、がん予防である。

 日本では、一九八一年に死亡原因の中でがんが第一位となった。しかしながら、がん予防についてはその方策がまだよく分かっていなかった。

 その後、九六年に米ハーバード大学がん予防センターによるがんの原因分析が行われ、喫煙の寄与が30%、食事内容の寄与が30%、運動不足などが5%であるという推計結果が出された。食事や運動不足などの生活習慣により乳がんのリスクが上昇し、肥満が結腸がんと関連している。逆に、規則的な運動は結腸がんや乳がんのリスクを低下させることも分かってきた。

 また、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸(けい)がんやヘリコバクター・ピロリ菌による胃がんなど、感染症もがんの原因となる。

 がんの原因は、大まかに言って喫煙30%、食事等生活習慣30%、感染症20%と考えていいだろう。県がん対策推進計画においても、禁煙支援などのたばこ対策の推進、野菜摂取などの食事バランスや運動不足の解消などが盛り込まれている。すなわち、喫煙をやめ、食習慣や生活習慣を変えることが重要である。

 しかしながら、こうした対策は分かっていても進まないのが現状だ。生活習慣を変えようとする一人一人の努力はもちろん大切だが、個人の努力だけではなかなか生活習慣の改変は難しいのである。それは、生活習慣は社会環境の中で営まれるものだからである。

 生活習慣は、個人の考えやし好だけで決められるものではない。われわれはそれぞれ自由に生活習慣を選んでいるように見えて、実は社会環境による制約を受けている。

 ストレスの多い職場環境が喫煙の原因となっている。車社会が運動不足の原因となっている。さらに休日がとれない過重労働が運動の機会を奪っている。忙しい日常生活において、簡便で時間のかからない食事になりがちなことによる栄養問題、長時間労働下での睡眠不足やストレス等、病める社会環境の中で不健康な生活習慣を営まざるを得ない現状がある。

 こうした社会環境をまず改める必要がある。社会環境づくりによって生活習慣を変えていくべきである。例えば、労働基準法遵守(じゅんしゅ)のルールづくりや快適な職場づくり、歩道や公園、サイクリングロードの整備など、県民の総意によって健康を支える社会環境を一つ一つ整えていくことが大切だ。

 健康を支える社会環境をつくることによって健康的な生活習慣が形成され、がん予防が進められていくことを期待したい。






(上毛新聞 2008年7月26日掲載)