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動物写真家 小原 玲(名古屋市千種区)

【略歴】前橋高、茨城大卒。動物写真家としてアザラシ、シロクマ、マナティー、ホタルの写真を発表。カナダの流氷で19年の取材歴があり、地球温暖化の目撃者である。




地球温暖化対策

◎人間より自然を優位に

北極にも南極にも取材に行っているようなテレビカメラマンとしばらく仕事を一緒にした。彼らと話して共通するのは、地球温暖化の進行の急速さへの危機感だ。サミットで提示された、二〇五〇年までに温室効果ガス半減などでは遅すぎるというのが、私たちの共通した認識だった。

 私たち現場を見ている人間からは、エコカーや省エネ家電が地球温暖化を防ぐとは思えない。それらは非常に有用な技術であり、その開発は望ましいことであるが、現在求められている対策は、もはやそのレベルではない。それぐらい温暖化の進行は速い。それに先進国の一部の住民がエコカーに乗りかえても、前の車が発展途上国に輸出されて使われるだけに思える。

 私は講演で、よく次のようなたとえ話をする。この会場の体育館で少しだけ窓を開けて、ストーブを強く焚たく。すると窓からの換気では追いつかずに室温が上がりだす。現在の地球はこのような状態にある、と。

 それではこの室内の温度の上昇を食い止めるにはどうしたらいい? ストーブを強火から中火に弱めるだけで済むだろうか? エコカーや省エネ家電は、ストーブを強火から中火にするようなものでしかないのではないか。一旦(いったん)室温が上がりだしたような状態なら、それでは不足だろう。できれば火を消す、それが不可能なら可能な限り弱火にする。求められているのはそれなのに、中火にする先端技術ばかりがちやほやされる。

 地球温暖化は実は非常にシンプルな問題だ。人間と自然との共生のバランスが崩れ、人間優位の生活を続けてきた結果、地球上の温度が危機的に上昇を続けていることにほかならない。ならば対策は、その共生のバランスを、自然側が優位なようにすればいいだけのことだ。

 ところが、人間はこの自然側を優位にするという対策を考えようとせず、人間側の問題処理で解決しようと試みる。

 自然は何も人間にエコカーや省エネ家電の開発を求めていないのである。そのような技術は人間が取りたい対策なだけであって、自然が求めているものではない。ここが人間の一番の誤解であろう。

 自然が求めていることは、自然を見ればすぐに分かる。どんな道路の片隅にでも雑草が生えるように、自然はそこに再び森をつくりたがっている。すべての森は草から始まり、次に木が生え、成長の競争の結果として森になる。自然は人間が木を切り、街をつくり、文明を築いてきた今でも、そこに森をつくり直したいのだ。アスファルトやコンクリートの面積を減らして、森を増やす。それが何よりの地球温暖化対策にほかならない。



(上毛新聞 2008年8月10掲載)