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県立ぐんま天文台観測普及研究員 浜根 寿彦(高山村中山)

【略歴】東京都杉並区出身。1997年から県職員。県立ぐんま天文台の発足準備に携わり、99年の開館時から現職。彗星(すいせい)の観測的研究など惑星科学が専門。



星空を仰いで

◎自然と人間の営み思う



 陽(ひ)が沈み、西の地平から太陽の気配が遠ざかるにつれて、夕闇にぽつりぽつりと明るい星が順に灯(とも)り始めます。季節を彩る星座の姿が見え始めると、いよいよ夜本番です。
 
 星々の並びはいつも同じです。月や惑星がときおり夜空を賑(にぎ)わします。ときには彗星(すいせい)などが現れることもありますが、私たちが一生の間に感じ取ることができる星空の変化はこれくらいです。

 星占いなどに出てくる「生まれ月の星座」は、その人が生まれた日に太陽が位置する星座をいいます。どの星座に太陽があるかを直接見るのは難しいですから、昔の人々は月の動きと形の変化を調べて新月の位置を探り、太陽が位置する星座を知りました。

 昔といえば、「生まれ月の星座」や「北極星」が今と昔とでは違うなどという話を聞いたことがあるかもしれません。でも、数千年前と今とで星の並びが違ったり太陽や月の動きが違ったりという話は聞きません。このことは、数千年という時の流れとともに星空全体がゆっくりとずれていくという事実を物語っています。

 でも、本当は星空がずれるのではなく、地球の自転がふらついているために宇宙の景色がずれて見えるということが今ではわかっています。現代では見えませんが、三千年昔には関東平野の空低くに中山峠(高山村)から南十字星が見えたはずです。うっそうと茂る広葉樹林の上に、十字の星の並びが輝いていたのです。縄文の昔の人々には、それが当たり前の星空でした。

 ところで、三千年前とまでいわなくても、昔の人々の生活は自然と隣り合わせでした。人々は身の回りの自然について豊かな知識を蓄え、活用し、恵みを得たり災厄を避けたりするとともに、自然の中に生きる術を世代から世代へと大切に伝えていったことでしょう。自然の特性も人間の経験も地域ごとに違いますから、これはまさしく「地域文化」の創造と伝承にほかなりません。

 現代は、人間が人間のために創(つく)り出した「街」という人工環境に多くの人々が暮らしています。この箱庭のような空間では、本来の自然とは距離を置いていますから、自然の営みと結びついた地域独自の文化は廃れてしまいそうです。

 このような時代に日常の中で触れられる昔ながらの自然の姿は、もはや頭上にしかないのかもしれません。自然との残り少ない日常的な接点が星空なのではないだろうかと思ってしまいます。

 悠久の時の流れ、自然と人間のかかわり、そして昔からの地域文化。星空を仰いでこうしたことに思いをはせるのも、私たちのあり方を振り返り、未来を見つめる良い機会になるかもしれません。



(上毛新聞 2008年8月12掲載)