視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
画家 ハラダ チエ(東京都杉並区)


【略歴】館林市出身。武蔵野美術大日本画学科卒。故片岡球子さんに師事。個展をはじめ、コンサートの公演ポスターやパンフレット、舞台衣装など多岐に作品を発表中。


熱帯夜に思う

◎必死に生きる子供たち

このところの熱帯夜のせいか、精気を消耗しきっていた私は、どこか避暑地にでも行きたいものだと、汗ばんだ蒲団(ふとん)の上で寝返りを打っていた。「今のあなたには、カタルシスが必要ね」と私の分身である「もう一人の私」が突然枕元で囁(ささや)いた。

 何せ、私のイメージの世界を生きる彼女である。きっと今ごろはバカンスを楽しんでいる、はずだった。

 「チャドにいるのよ、アフリカの」。彼女は思いがけない国名を言った。「なんでわざわざ過酷な土地に!」。私はびっくりした。

 毎年、終戦記念日に行われる、東京フィル交響楽団主催の「ハートフルコンサート」が今年で十九回目となる。第一回目からずっと語り手はユニセフ親善大使になられて二十五年の黒柳徹子さん。ご自身も声楽科を出られ、父上もバイオリニスト、音楽に精通され東京フィルの副理事長にも就任されている。

 私がこのコンサートの公演チラシのイラストを初めて依頼されたのは二〇〇三年のことだった。日本は終戦を迎え、爆撃音の代わりに美しい音を聴ける時代になったわけだが、世界を見回せば戦争が絶えることはない。地球上の子供たちの九割近くが発展途上国に生き、飢餓や病気に苦しんでいる。

 コンサートのチラシのイラストを描く時、私はその内容をイメージしてメッセージを込めることが多い。このチラシを描く時も、徹子さんを中心に音楽家や権力者が率先して、地雷で足を失った子供や、老人、さまざまな民族の人々をつなぎ、大きな輪をつくっているイラストを描いた。そして、左端に少しの空間があり、そこにはこれを見ている「あなた」が手をつないでください、という思いを込めたのだった。このイラストはその後、毎回使っていただき、デザインを変えながら「ハートフルコンサート」のチラシとして定着している。

 「チャドの『ダル・エス・サラーム村』っていうところにちょっと来てみてよ」と、「もう一人の私」がまた急に言った。「この時期、砂漠の国に?」。私は気のない返事をした。「あなたはそんなイラストを頭の中だけで描くんじゃなく、もっと現状を知るべきだわ。子供の労働力に頼る家々で、少女たちが家畜に水をやるため毎日毎日、泥で作った大きな飼い葉桶(おけ)に、井戸から汲(く)み上げた水をあけている重労働を見たわ。親は子供にこのまま働かせておくか、教育を受けさせるべきか、悩みもしないの。何故(なぜ)ってここには学校がないからよ」

 寝苦しさの解消はクーラーよりも、私には必死に生きる子供たちの光景の方が確かに、生気を呼び覚ましてくれる気がした。




(上毛新聞 2008年8月15掲載)