視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
元障害福祉サービス事業所ぐんぐん所長 山口 久美(高崎市石原町)


【略歴】日本福祉大卒。約20年、知的障害者の福祉に携わる。2007年3月、高崎市内に自閉症の人たちの自立を支援するためのパン工房とカフェを開設した。



高め合う子育て力

◎障害ある子でも同じ

 障害がある人と、障害のない人と、本人の立場にたってみれば、「大人になる」ということに関して違いはないはず。でも、育てている人(親)やかかわっている人(先生や支援者)にとってはどうでしょう?

 私は今母親として、いつか大人になる時のことを考えながら娘を育てています。自分のことは自分でできるように。いろいろな状況を考えながら自分で判断できるように。そして、自分で決めたことには自分で責任をとれるように。人の中で、楽しく、安心して生きていけるように…。実際の生活の中で、実際の経験の中で、そのための力をつけられるよう、チャンスを逃さないでいられるようにしてあげたい。いつか自分の人生を自分で決めていくときの選択肢が、できるだけたくさんあるように、今はできるだけいろいろな経験を積ませてあげたい。そして、子どもたちにとっていい社会をつくっていける大人でありたい、と思います。

 初めての子育てで、生まれた瞬間からいつもいつも試行錯誤。いろいろな人に助けられながら、教えられながら、母として親としての力を高めようと努力してきた…つもり(笑)。障害のある子どもを授かったとしたら何かが違ったでしょうか? たぶん、違うのは、今よりももっとたくさんの人に助けられて、教えられて、子育ての力を高めてもらうことだけだと思うのです。

 大人になった障害のある人たちの支援をしていると、お母さん・お父さんを助け、教え導き、子育ての力を育ててくれる専門家がいなかったんだなぁ…という壁にとてもたくさんぶちあたります。障害があるのだから仕方がない…とあきらめてしまっている親御さん。子どもの可能性は、障害があったってたくさんあるはずです。障害を認めたくない!と頑張っている親子。今の社会では障害があるということはとても大きなハンディだと思います。できないことや無理なこともあるでしょう。でも、いいチャレンジはいい方向へ進むかもしれません。半面、ネガティブなチャレンジは、負荷とひずみを生むかもしれません。障害を正しく理解してもらえないご本人。本当の自分を認めてもらえない苦しみを一生背負っていくのは大変だよね。

 子どもに障害があっても、その子どもを「立派な大人」に育てる義務と権利は親にあるはずです。その子育てを全うできるよう支援するのが専門家の役割ではないでしょうか。障害のあるなしにかかわらず、親も子も安心して暮らせるよう、適切な支援ができる人。子育てに困ったとき、迷ったときに、必要な支援が求められる人。そのどちらにもなれるよう、いつも努力していたいと思います。





(上毛新聞 2008年8月16掲載)