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文筆家 岡田 幸夫(桐生市広沢町)


【略歴】東北大工学部を経て東京三洋電機に入社。2005年に退社、身近な体験を通して、健康、環境、社会、歴史などを考える「晴耕執筆」生活を実践している。



小さな農園

◎健康や環境に効用あり



 余暇の野菜づくりを始めて三十年ほどになる。農家に比べればとるに足りない規模であるが、年間四十種類ほどの野菜を無農薬で育てており、今ではほとんど生活の一部となっている。野菜づくりは堆肥(たいひ)を入れ(元肥)、畑を耕し、種を蒔(ま)くことから始まる。それまで休眠していた種は、土の中で生命活動を開始する。野菜が発芽すると、その成長は驚くほど速い。毎日成長する苗にせきたてられるかのように、朝目覚めることになる。畑仕事のかなりの部分は除草作業になるのだが、つらいとか大変だとか感じることはない。生き物を相手にしている楽しみが勝るからだろう。

 有機肥料をたっぷりと施した健全な土壌に、適時に種を蒔き、愛情をそそいで育てれば野菜は丈夫に育つようになっている。消毒や農薬は必要条件ではない。天候が少々悪くても、虫がついてもそれをはね返す生命力や成長力を持っている。人間だって同じ摂理に従っているのに違いない。いつしか私はそう確信し、できるだけ人工的なものや薬に頼らない生活を実践するようになった。

 夏場でも毎朝、約一時間半草むしりを中心に作業する。全身汗びっしょりとなる。シャワーを浴びて冷たい水を飲む。扇風機があれば十分で、クーラーは特に必要としない。畑では、野菜の収穫もその味を賞味することも大事な作業のひとつである。できるだけ食べる直前に収穫する。畑は冷蔵庫に勝る野菜の自然保管庫であり、輸送費がかかることもない。野菜づくりをしている中で、収穫した大豆を使った味噌(みそ)づくりも覚えたし、無手勝流(むてかつりゅう)の調理法も身についた。台所から出る生ごみも、大事な有機肥料の素である。肥やし場で落ち葉、鶏フンなどと一緒に熟成させれば野菜に最適な堆肥ができる。

 このように、畑は私の生活を支える大事な基盤となっている。畑で野菜を育てることはあらゆる意味で自分が健康に生きることに通じている。しかもそれは恐らくCO2排出量最少のライフスタイルにもつながっている。

 食料自給率の向上、CO2排出量の削減、そして医療費の抑制も、待ったなしに実行されなければならない日本の大きな課題である。国の大きな政策も必要であるが、家庭生活からの貢献も求められる。環境意識の高いドイツでは、クラインガルテンと呼ばれる小農園や市民農園の長い歴史がある。遊休農地、身近にある小農園の活用がもっと見直される必要があるだろう。





(上毛新聞 2008年8月19掲載)