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新潟大人文学部教授 橋本 博文(新潟市西区)


【略歴】太田市出身。早大大学院博士課程満期退学。早大助手を経て、1999年11月から現職。新潟大旭町学術資料展示館長。博士(文学)。



農地の遺跡保護

◎転作し深耕避けよう


 わたしの郷里、群馬では確実に埋蔵文化財の破壊が進行している。それは商品作物の深耕による破壊である。

 利根川やその支流の自然堤防上では、その肥沃(ひよく)でさらさらした土壌にヤマトイモが栽培されている。また、同様に深く根を張るゴボウが、連作を嫌って徐々に、より内陸部にまで作られるようになってきた。

 「繭と生糸は日本一」。お馴染(なじみ)、『上毛かるた』の一枚である。明治期の殖産興業の中で、現在、世界遺産登録を目ざしている富岡製糸場を中心に本県では全国一の製糸業が栄えた。

 その陰で、山野は開墾され、多くの古墳が桑畑となって姿を消していった。本県の遺跡にとって、それが第一期の受難期だとすれば、現在が第二の受難期といっても過言ではなかろう。

 昨年、県内のA遺跡という古墳時代の豪族居館跡を発掘調査する機会に恵まれた。ところが、その南部の発掘区を掘ったところ、地下の遺構がゴボウ栽培のための農機具トレンチャーによりズタズタに壊されていることが判明した。あたかも、シュレッダーにかけられたように切り刻まれ、竪穴住居跡や古墳の濠(ほり)、溝などが深刻な影響を受けていた。

 その後、同じ地域圏の重要遺跡、B遺跡を学生とともに訪ねたところ、その遺跡の中心部にゴボウが植えられているのに気が付いた。しかも、多くの貴重な遺物が散乱していたのである。それらには深耕の機械によるものとみられる新たな無数の傷が認められた。

 しかし、地権者や耕作者の権利を考えると、そうは簡単に栽培にストップをかけることはできない。指導する側の行政も手をこまねいているというのが実情である。

 遺跡の遺構を傷つけないようにするには、そこに土盛りをし、深耕の影響が遺構まで達しないようにするのが一策であるが、費用面を考えると現実的ではない。

 最も容易な方法は、耕作者に遺跡の存在を知っていただき、深耕を必要としない作物への転作を勧めることである。それには、われわれ埋蔵文化財関係者の粘り強い働き掛けが必要である。イギリスならば、ナショナルトラストという国民的運動で買い上げるということにもなろうが、残念ながら日本ではそこまで意識が高まっていない。

 よって、最終的には耕作者側の理解・厚意にすがるしかない。子々孫々に伝えなくてはならない人類共有の貴重な文化遺産を永久に破壊してしまうことの是非を考えていただきたい。




(上毛新聞 2008年9月13日掲載)