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弁護士 丸山 和貴(前橋市大手町3丁目)


【略歴】東京大法学部卒。1981年弁護士開業。91年度群馬弁護士会副会長、2006年度同会長。前橋市の教育委員、都市計画審議会委員などを務める。



必要経営者の引き際

◎やめる勇気も


 一九九一年のバブル崩壊、九七年からの金融破綻(はたん)の後、倒産事件数は急増したが、二〇〇二年をピークに減少が顕著となっていた。しかし今年になって、原油高、材料費の高騰などの影響で、再び中小企業の倒産数が増えてきている。

 企業経営には、平素から経営者の判断が重要であるが、今回は引き際の判断について考えてみたい。

 ここでやめるか、続けるかの選択は人生で重い選択である。多分正解はないのだろうが、やめる勇気も大切である。勿論(もちろん)、事業をやめれば、取引先、従業員、家族に与える迷惑は大きい。世間体も悪い。

 しかし、ここで大切なことは、やめないことで、これらの迷惑が最終的に防げるかということである。現在はともかく、続けることで将来与える迷惑がより大きくなるなら、やめる勇気を持つことも必要だろう。

 自分の財産は勿論、家族や親兄弟の財産もつぎ込み、借りてはいけない資金に手を出す経営者はいまだに多い。もう少し早く決断して対処していれば、立ち直ったり、最悪の場合でも周りの被害は少なかったはずである。

 将来のことは全部予測できるわけでないが、日ごろの経営上、事業で稼ぐお金(売り上げ)と、そのために必要な仕入れや人件費、管理費(経費)の比較(損益の比較)を怠ってはならない。損益が赤字なら、早く対策を講じる必要がある。対策は売り上げを増やすか、経費を減らすかであり、借金は、それにより売り上げが増えるのでなければ対策にはならない。

 倒産は、債権者にとって、心外なできごとである。債権者が許す倒産というのは、本来はあり得ないことである。しかし、経験的にいうと、いざという時に債権者からの追及を厳しく受ける経営者と、そうでない経営者の二タイプがある。一生懸命経営をしていた誠実な経営者は、あまり責められないことが多い。一生懸命さとは、本業での“一生賢明”さであり、家族の預貯金を提供することでもないようだ。誠実に努力してきた経営者は、逃げようとか、隠れようとか思わないらしい。

 最後に、まだまだ命で償おうとする経営者もいる。これを、日本の経営者は生真面目だなどと片付けてはいけないだろう。第一、命を捨てても、誰も利益を得ないし、誰も喜ばない。残された者の被害は甚大である。

 不況になると、弁護士業が忙しいだろうと揶揄(やゆ)する人もいるが、こんな風習だけはなくしたいと思って仕事をしているところもある。



(上毛新聞 2008年9月14日掲載)